著者
吉崎 誠
出版者
国際教養大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

(1)研究目的:本研究は、マネージメントのあり方を視野に収めて、国立大学法人化後の大学経営に求められるようになった戦略計画(中期目標・中期計画)の形成のプロセスのあり方と、それを実践するマネジャー職の役割について検証するものである。(2)研究方法:このために、戦略計画の構造・内容に係る先行研究を整理するとともに、本研究の底本となった"Strategic Planning for Public and Nonprofit Organizations-Rev.ed."(1995;Jossey-Bass)の著者であるJohn M.Bryson(Professor,University of Minnesota)に、大学組織における戦略計画の構造、策定過程などについてインタビューを行った。また、米国の主要な大学の戦略計画をWebから得るとともに、ミネソタ大学、オレゴン州立大学を訪問し、戦略計画の形成過程、マネジャーの係わり等に関して、トップマネジャー(副学長)やミドルマネジャー(学部長)、これらを支援するInstitutional Research Officeの所長などの担当者へのインタビューを試みた。また、日本同様に、最近大学の法人化に踏み切った台湾の国立臺灣大学、真理大学、開南大学を訪問し、トップマネジャー(学長、副学長)およびミドルマネジャー(学部長など)へのインタビューを行い、大学における戦略計画に係わる情報を収集した。(3)研究成果:戦略計画は、いまや大学におけるマネージメントを語る上での共通のツールとなっていると言っても過言ではない。それは、プランニングされたビジョン・戦略・計画などを組織の内外に対する最も重要なコミュニケーションとなっている。これら戦略計画は、アメリカの大学では、トップダウンとボトムアップのミックス型で形成されている。タスクフォースを形成し、内部環境分析・外部環境分析を行い、多くの構成員が数年をかけ議論し策定に至っている。また、いい提案は他のタスクフォースに紹介し、各タスクフォースの意見に傾聴するなどProvost(副学長)の果たした役割が大きいが窺われた。他方、戦略計画の導入に日の浅い日本および台湾の大学における戦略計画は、トップダウン的な手法により策定している傾向にあり、戦略計画にも進化のフェーズがあることが見てとれた。今後の課題としては、日本の大学において戦略計画(中期目標・中期計画)を経営にいかに浸透させるか、またマネジャーの果たす役割などについて、引き続き検証していきたい。
著者
名越 健郎
出版者
国際教養大学
雑誌
国際教養大学アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
no.1, pp.37-49, 2015-06-30

現在の日本はペットブームで、ペットフード協会(東京都千代田区)の調査によれば、2014年に家庭で飼われる飼育頭数は猫が約995万匹、犬が1034万匹という。秋田犬の名称が県名と合致する本県は、秋田犬の「聖地」であることを売り込むことで、県の知名度や存在感を高め、観光誘致に利用することができる。秋田犬は将来、再び絶滅の危機を迎えかねないことから、純粋犬種の保護に向け、ブリーダー機能を強化することも求められよう。本稿では、日本の歴史に重要な足跡を残した秋田犬の歴史と、国内と海外の秋田犬普及状況を紹介しながら、ビジネスにも利用できる秋田犬活用法を提言する。
著者
大島 規江
出版者
国際教養大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究はオランダのアムステルダムを事例にエスニック・エンクレイブの変容を(1)人口的側面、(2)空間的側面、(3)社会・経済的側面、そして(4)文化的側面から包括的に分析・実証したものである。1990年代からのエスニック・エンクレイブの郊外への拡大には、福祉国家オランダの住宅供給システムのみならず、エスニック事業所やエスニック・コミュニティの存在が大きな要因となっていることが実証された。
著者
竹村 豊
出版者
国際教養大学
雑誌
国際教養大学アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
no.1, pp.97-105, 2015-06-30

第二次世界大戦終結70周年の年にウクライナ問題の先鋭化は欧州における戦後処理(ヤルタ体制)、東西冷戦、ベルリンの壁撤去、ソ連邦の崩壊、EU/NATOの拡大と続く個々の出来事に内包された諸問題に因って引き起こされたものである。ウクライナ・ポロシェンコ政権を支持する米国、EUと対立するプーチン政権は欧米のみならずオーストラリア、日本からも経済制裁を受け、日増しにロシアが世界経済から孤立しているにも関わらず、プーチン大統領の支持率は80%を超えている。元々、ソ連時代からロシアは政経一体型の経済運営であるが、クリミア・ウクライナ問題に絡む一連の高い代償を払いながら強引に自らの政策を進めようとするのは、プーチン大統領の経済政策のルーツがオリガルヒ(新興財閥)との戦いであり、この戦いを通じて今日「国家資本主義」と言われる経済運営が形成されたのである。今後のロシアの資源・エネルギーを中心とする対東アジア経済政策をみる上で経済原則に依らない政治的、戦略的な意図を見ておかなければならない。
著者
堀井 里子
出版者
国際教養大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、国境なき医師団と移民オフショア支援基地(MOAS)という二つの非政府組織(NGO)が欧州難民危機という文脈において開始したボートピープルの捜索救援活動を事例に、NGOがEU国境管理政策において果たす役割を明らかにすることが目的である。初年度にあたる平成29年度は、年度前半にイギリス・バッキンガム大学に客員研究員として滞在していた立地上の優位性を背景に、先行文献と関連資料の収集、専門家との意見交換および現地調査を行った。まず、イギリス・オックスフォード大学難民研究所主催のセミナーに参加し、移民をめぐる政策においてNGOと国家の関係性を研究するMollie Gerver氏(ニューカッスル大学)を初めとする専門家と意見交換を行った。また、イギリス・ケンブリッジ大学において犯罪学の専門家であるパオロ・カンパーナ氏と面会し、同氏より地中海域での移民の密入国と国際犯罪ネットワークについて知見を得た。さらに、イタリア・シチリア島での現地調査では、カタニア大学で地中海域を中心としたEU国境管理やNGOの活動を研究するDaniela Irrera氏およびRosa Rossi氏との意見交換を行い、またOxfamとDiaconia Valdeseという二つのNGOが設立した移民・難民サポートセンターにおいて職員およびシリア難民に会い聴き取り調査を行った。また、バッキンガム大学をプラットフォームとして、資料の収集を精力的に行った。これらの活動は以下の点で有益であった。まず、NGOによるボートピープルの捜索救助活動をめぐる論点が明らかになった。第二に、NGOによる捜索救助活動に関する事実的また時系列的な情報を入手することができた。第三に、現地コミュニティでの難民の受入態勢、姿勢を学ぶことができた。次年度はこれらの知見を活かし研究をさらに進める予定である。
著者
柴田 澄雄
出版者
国際教養大学
雑誌
国際教養大学アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
no.1, pp.27-35, 2015-06-30

2001年10月に運航が始まった秋田=ソウル間の定期便(大韓航空)は利用者数の低迷が続いている。当該便はビジネスニーズでの利用が少なく、路線維持が観光ニーズに依存している。秋田からの外国旅行者数が長期的な減少傾向にある中で韓国への旅行者数の増加に大きく期待することは困難であり、人口規模の大きなソウル特別市や仁川広域市から、いかにして秋田県への訪問者数を増やすかが路線維持の可否を左右することになる。本稿では、近年の訪日韓国人観光客数の推移と、その中で本県を訪問する韓国人観光客数の推移を検討した上で、本県への韓国人観光客の誘致にいかなる方策があるかを論じ、さらに、2015年1月から3月にかけて、国際教養大学および韓国の中央大学校との間で実施した課題解決型学修プログラムにおいて、学生たちが秋田とソウルの観光・物産販売等の促進について論じた内容を紹介する。
著者
安積 徹 佐々木 陽一 喜多村 昇 山内 清語
出版者
国際教養大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

以前安積は、モリブデンの六角クラスターの三重項状態からの燐光の温度変化を解析し、燐光は、三重項状態がスピン軌道相互作用によって分裂した3つのスピン副準位からの発光の重ね合わせによるものと解釈した。その後、モリブデンクラスターと同じ電子数で同じ対称性のレニウムクラスターについてGreyらによって報告されたが、彼らは、スピン副準位を考えず、温度変化の原因を振動励起状態からの発光の寄与と結論した。一方、北海道大学の喜多村らは、スピン副準位の寄与を考えたが、安積のモリブデンクラスターと異なり、4つのスピン副準位が関与していると結論した。電子数も対称性も同じである2種類のクラスターでどうして発光機構がそれほど異なるのかを解明するために、本研究では、モリブデンクラスターとレニウムクラスターを総合的に理論、実験の両面から再検討を行った。実験は、モリブデンクラスターについては、カウンターイオンの異なる2種類のクラスターを、また、レニウムクラスターについては、配位子の異なる2種類のクラスターを、結晶状態およびPMMAポリマー溶液状態で燐光の温度変化を詳細に観測した。その結果、すべてのモリブデンおよびレニウムクラスターについて、燐光は主として3つのスピン副準位からの発光の重ね合わせであることが明らかになった。更に、測定温度を極低温の3Kまで拡張した測定により、2番目のスピン副準位についてJahn-Teller効果による対称性の低下が起こり、それに伴ったエネルギーレベルの分裂が観測された。理論面では、従来のd電子のみを考慮する二重群論に基づく理論が、この種のクラスターに広く適用できることが明らかとなった。