著者
堀川 祐里
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.337-368, 2017-10-10

本稿は,戦時期に盛んになった「女子労務管理研究」について,特に労働科学研究所で行われた研究を中心に考察していくものである。 戦時期において,経済的必要性からは賃労働をする必要がない階層の未婚女性を労働現場に引き出すため,「女子労務管理研究」が盛んに行われるようになる。 その担い手のうちでも労働科学研究所の古沢嘉夫は,労働力を提供しながらもその労働環境を配慮されることなく酷使されていた,既婚女性労働者の保護という視点を持っていた。動員政策以前から,経済的な必要性により賃金労働をしていた既婚女性は,動員政策上は動員の対象ではなかったため,その保護は等閑視された。そのため,「女子労務管理研究」において,古沢のように階層を視野に入れ,生計を維持するために働かなければならないような既婚女性労働者の分析がなされているものは限られる。 しかしながら,古沢には戦時下における研究の諸制約もあった。「女子労務管理研究」に見られる研究者の制約は,彼らの戦時下における葛藤を浮かび上がらせている。