著者
堅田 弥生
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.31-39, 1974-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
11

生命概念の発達を研究するため, 今回は「生命認識の手がかりとその変化」について, 5才から11才までの 154名を対象に調査した。生命の客観的規準系を定立し, 4つの生物と6つの無生物, およびウサギ・キク (実物と人造物の対比) において, 子どもが生命有無の判断に用いた手がかりを, この規準系との照合において検討した。主な結果はつぎのとおりである。1) 子どもが生命を認識する手がかりは, Piagetがいう「運動」以外にもっと幅広く, そのうち5~7才児では運動, 食物・水の摂取, 形態的特徴が選択率上, 上位3 つの手がかりである。9才以後は運動'食物・水の摂取, 発生・成長となり, 生命の本質的理解が年齢とともに深まることが, 手がかりの量的増大, 質的変化となってあらわれる。2) 幼児は無生物を動き, 変化, 機能などにより「生きている」といい, 無生物と生物とが混然としている状態から, 自発的運動, 食物摂取, 形態的特徴, 発生などに関する手がかりが主となって無生物と生物を分離する方向に発達する。3) 5~7才児では, 100%のものがイヌを「生きてる」というが, ウサギの生物とおもちゃの対比において'その生命有無を正しく判断できるものは'特に5才児では約35%しかない。残り65%は「生きてる」という言語を活動的な無生物にまでひろげて用いており, その中には, 無生物と生物が混然としているものと, 生命に関する両者の差をある程度理解しているものとがある。したがって, 同年齢群中に発達上のいくっかの段階が混在しているといえる。4) チューリップ・キク (植物) の生命認識は, 外観上運動がないことから動物よりもおくれるが, 成長, 吸水, 枯死が主たる手がかりとなって年齢とともに発達する。〈付記〉本研究に御指導頂いた東京女子大学新田倫義教授, 北海道大学三宅和夫教授, 若井邦夫助教授, 北海道栄養短期大学戸田壹子講師に深く感謝します。さらに統計的処理に関して御指導頂いた北海道大学寺岡隆助教授に深謝します。また, 調査に御協力頂いた札幌育英幼稚園, 北大幼稚園, 北九条小学校の幼児・児童の皆さんと諸先生方にも深く感謝します。