著者
塚原 智英
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.299-299, 2014

癌免疫は,癌に対する免疫応答の理解と癌の免疫制御を目指す学問であり,癌抗原の同定によって飛躍的に発展した.よって癌免疫の理解には癌抗原の理解が重要である.癌免疫の存在は1990年代に自家細胞傷害性T細胞(CTL)クローンに認識されるヒト癌抗原のクローニングにより,主にメラノーマで証明された.これらの発見にはforward immunology approachといわれる腫瘍反応性ヒト自家CTLクローンの樹立とcDNAライブラリ発現クローニング法の開発が大きく貢献した.さらに既知の候補抗原からCTLエピトープを求めるreverse immunology approachも盛んに行われ,メラノーマ以外からも多くの抗原が同定された.これらの知見はペプチドワクチンや抗原特異的リンパ球大量輸注療法の開発につながっている.また昨年は抗CTLA-4抗体や抗PD-1抗体などのチェックポイント抗体による活性化T細胞制御がメラノーマに対して有効性を示して一世を風靡した.チェックポイント抗体がメラノーマでよく効いた理由として(1)癌抗原が皮膚のランゲルハンス細胞に取り込まれてCTLを効率よくプライムできる,(2)高い免疫原性を持つ変異抗原が多く発現してる点が重要と考えられる.今後は高い腫瘍特異性をもち,かつ造腫瘍能を制御する癌の根源に迫る癌抗原の同定が重要となる.また自家CTLが認識する抗原の同定は,時に我々の想像がおよばないようなセレンディピティを与えてくれる.