著者
塚崎 公義 Kimiyoshi Tsukasaki
出版者
久留米大学商学会
雑誌
久留米大学商学研究 = Journal of commerce,Kurume University (ISSN:1342047X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.171-204, 2006-03-25

銀行が合理的に行動したとしても、「実質債務超過でありながらリストラを怠っている借り手に対して追い貸しを行なう」ことはあり得るし、それが国民経済的に望ましい場合もある。したがって、「追い貸しだから問題だ」とは言えない。たとえば建設中のビルを完成させるための資金を追い貸しすることは、銀行の回収額を増加させるのみならず、生産的で国民経済的にも意義のあるプロジェクトである。また、債務超過であっても借り手が自力で利払いを行なっていれば、これに対する追い貸しも、銀行にとり合理的で国民経済的にも意味がある。「銀行が利払い資金を追い貸しして借り手を延命させ、自己資本の毀損を防いでBIS規制の制約を逃れる」という行為も、銀行にとっては場合により合理的な行為であり得るし、国民経済的にも有害とは言い切れない。マクロ的な資金配分への悪影響が限定的である一方で、貸し渋りを緩和する効果も期待でき、しかも景気が回復するとこうした追い貸しが縮小されていくメカニズムが内包されているからである。銀行がBIS規制逃れの目的で追い貸しを行なう場合には、モデル上は、「借り手の資産が少ないほど追い貸しを受けやすい」という逆転現象が生じ得る。もっとも、90年代の邦銀の状況に鑑みれば、そうした実例は多くなかったと思われる。銀行が追い貸しを行なうことが予想されると借り手がリストラを怠るという問題があるため、銀行としては「リストラしないと清算する」と脅す必要がある。
著者
塚崎 公義
出版者
久留米大学
雑誌
久留米大学商学研究 (ISSN:1342047X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.79-92, 2005-06

(1)株価の下方へのバブルは合理的バブルとして成立しえない。バブルの永続可能性を合理的バブルの必要条件とすると、株価の下方バブル(株価がファンダメンタル価格から下方に乖離していくバブル)は合理的バブルとして成立しえない。これは投資家がリスク中立的であってもリスク回避的であっても同様である。実際の株価をP、株式のファンダメンタル価格をF、バブルをBとすると、下方バブルの場合にはP=F-Bとなるが、バブルが持続する場合について市場が予測するBの成長率はFの成長率を凌駕するため、バブルが永続した場合について市場の予測する将来のPがマイナスになってしまうからである。(2)円の対ドル価値の下方へのバブルは合理的バブルとして成立し得る。ドルのファンダメンタル価格をF円、バブルをB円とすると、1ドル=F+B円となる。日本人(円保有者)の為替投機によりドル高のバブルが発生したと仮定する。このとき、米国人(ドル保有者)にとっては円安のバブルが生じていることになる。ファンダメンタル価格は1/F(ドル/円)、実際の価格は1/(F+B)(ドル/円)であり、その差がバブルの規模である。米国人投資家(ドル保有者)が少しでもリスクを許容できるならば、バブルが一定規模に達した段階でバブルを「空売り」することが合理的である。彼等にとっては、バブルの成長率が逓減していくことで「空売り」に際してのリスクが減少していくからである。したがって、ドル高(=円安)のバブルは永続しえず、合理的なバブルとは言い得ない。しかし、米国人投資家が完全なリスク回避主体であれば、バブルの「空売り」は行なわない。バブルが拡大を続ける可能性がある以上、バブルの「空売り」にはリスクが伴うからである。したがって、この場合には、日本人投資家によるドル買いバブルが永続する可能性があり、「ドル高円安」の合理的バブルが成立し得ることとなる。