著者
塩澤 彩香
出版者
信州大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、新規抗リウマチ薬イグラチモドによるワルファリン代謝阻害の機構を明らかにすることを目的とし、解析を行った。プールドヒト肝ミクロゾーム(HLMs)および組換えCYP2C9(rCYP2C9)を酵素源として用い、S-ワルファリン7-水酸化酵素活性に対するイグラチモドの影響を検討した。イグラチモドはHLMsおよびrCYP2C9の活性を濃度依存的に阻害し、IC_<50>値はそれぞれ14.1μMおよび10.8μMであった。阻害の速度論的解析を行った結果、イグラチモドは両酵素源に対して競合型の阻害様式を示した。HLMsおよびrCYP2C9に対するK_i値はそれぞれ6.74μMおよび4.23μMであった。イグラチモドによる阻害が代謝依存性を示すか否かを明らかにするため、プレインキュベーションの影響について検討したところ、NADPH存在下で各酵素源とイグラチモドを20分間プレインキュベートしても、IC_<50>値の低下は認められなかった。Obach RSら(J. Pharmacol. Exp. Ther., 316, 336-348, 2006)の方法およびコルベット錠25mg(イグラチモド製剤)のインタビューフォームに記載された方法を用いて、本研究で得られたHLMsのK_i値と肝臓中の非結合形薬物濃度(約0.8μM)から、臨床での薬物間相互作用の可能性について推察を試みた。その結果、S-ワルファリンのAUCはイグラチモドと併用することによって約2.3倍の上昇が見込まれた。カペシタビンを併用したときのワルファリンの体内動態および薬効の変動を解析した臨床研究では、S-ワルファリンのAUCが1.57倍増加したとき、PT-INRが1.91倍上昇したことが報告されている(Camidge R et al., J. Clin. Oncol., 23, 4719-4725, 2005)。これらのことから、イグラチモドとワルファリンを併用したとき、イグラチモドがワルファリンの代謝を阻害し、プロトロンビン時間を延長する可能性が示唆された。以上の結果から、イグラチモドはそれ自体がワルファリンの代謝を阻害することが明らかとなった。臨床で報告されたイグラチモドとワルファリンの相互作用の機序の1つとして、イグラチモドによるCYP2C9活性の阻害が考えられた。