著者
福井 里香 梅本 雅彦 辻 勲 塩田 充 星合 昊
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.293-297, 2004 (Released:2004-09-30)
参考文献数
14

患者は19歳の未婚女性で,0経妊0経産.14歳時に腟内にプラスチック製の約12cmの棒状異物を挿入された.問診上,挿入された経緯については不明であった.19歳時パートナーができたため,腟内異物抜去希望にて他医産婦人科受診した.他医にてMRI検査の結果,腟内異物の直腸内への穿孔が疑われたため当院を紹介された.当科において大腸内視鏡検査を行い,後腟円蓋部から直腸上部への穿通が確認された.入院後は中心静脈栄養を開始し,術前1週間の絶食の後,全身麻酔下にて経腟的に異物抜去を試みた.異物は長径約12cmのプラスチック製のアイスクリームの棒であった.先端部位が直腸内に穿通しており,中間の傘の部分が後腟円蓋にとどまって肉芽に包埋されていた.術後は31日間絶食とし,注腸造影により造影剤の漏出のないことを確認した後,経口摂取を開始した.本症例はその後性交可能となり,妊娠,出産に至った. われわれが検索しえた治療目的以外の腟内異物により瘻孔を形成した報告例は自験例を含めて10例であった.その内訳は膀胱腟瘻6例,直腸腟瘻3例,尿道腟瘻1例である.年齢は20歳未満が6例と半数を超えている.挿入動機が成人では自慰目的やいたずらであることが多いのに対して,年少者では不明であることがほとんどである.本症例は5年間放置されていたが,他の直腸腟瘻形成例はいずれも4年間放置されていた. 今回われわれは5年間放置され直腸腟瘻を形成した腟内異物を経験した.また加療後性交可能となり妊娠,出産に至った稀有な症例を経験したので報告した.〔産婦の進歩56(3):293-297, 2004(平成16年8月)〕
著者
島岡 昌生 釣谷 充弘 小池 英爾 老木 正彰 塩田 充 星合 昊
出版者
近畿大学医学部
雑誌
近畿大学医学雑誌 = Medical journal of Kinki University (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.101-108, 2008-06-01

ヒト正常妊娠におけるエリスロポエチン情報発現ならびに妊娠過程における役割を調べる目的で,人工妊娠中絶術後の子宮脱落膜組織を用いてエリスロポエチンmRNA,エリスロポエチン受容体mRNAおよびエストロゲン合成酵素であるアロマターゼmRNAの発現量を5週から8週の子宮脱落膜組織で測定した.免疫組織化学的にこれらの蛋白の組織内局在も調べた.標本取得には近畿大学医学部倫理委員会のガイドラインに従った.エリスロポエチンmRNA,エリスロポエチン受容体mRNAおよびアロマターゼmRNAはそれぞれの標本間で発現量の偏りがみとめられたが,各週毎の発現量の平均値を比較すると, 6週の脱落膜組織に3つのmRNAが有意に高値を示した.更にこの時期の脱落膜組織を検索したところ,特に栄養膜細胞の血管壁への侵入と,栄養膜が2細胞層に分化していく過程でエリスロポエチンとエリスロポエチン受容体蛋白およびアロマターゼの分布が共存していることを見出した.アロマターゼの分布はその場でのエストロゲン合成を示唆する.更にエリスロポエチンは分泌型の蛋白であるので脱落膜から初期匪着床部位に移動する可能性も考えられる.本研究では,妊娠6週を前後する週における妊娠維持,特に胎盤形成に関与する栄養膜細胞の分化過程にエリスロポエチンとエストロゲンの関与が示唆された.