著者
塩田 雄大
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.70, no.12, pp.36-53, 2020 (Released:2021-04-16)

「日本語のゆれに関する調査」の結果について報告をおこなう。調査結果から、次のようなことを指摘する。 ▼「9時10分前」というのは「9時10分の数分前」であるという解釈のしかたが、若い年代になるほど多くなっている。 ▼「私情」ということばについて、20代を中心に「私的な事情」のことも指しうるという考え方が多くなっている。 ▼「船は2日おきに来ます」という言い方について、ある日に船が来たら次に来るのはその3日後になるという解釈は少なく、2日後になるという解釈が最も多かった。 ▼「言う」について、「[ユウ]と発音する」と意識している人が多かったが、文字で書かれたとおり「[イウ]と発音する」と意識している人の数も決して少なくなかった。 ▼「ぬかった道」ではなく「ぬかるんだ道」と言うという人が最も多く、この回答に集中する割合は若い年代になるほど顕著に多くなっている。 ▼「足らない」「もの足らない」ではなく「足りない」「もの足りない」と言うという人が、いずれも多い。年代が若くなるほどこの回答に集中する割合が多くなっている。 ▼「はし・はじ」(端)は、全体としては「はし」が最も多いが、若い年代になるほど「はじ」もある程度多くなるような分布になっている。
著者
塩田 雄大
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.44-62, 2023-01-01 (Released:2023-02-20)

「日本語のゆれに関する調査」の結果について報告をおこなう。さまざまな配慮表現をめぐる調査結果から、次のようなことを指摘する。▶「お足元の悪いところ」「おかげさまで」「〔メール冒頭で〕お疲れさまです」「〔会話冒頭で〕お疲れさまです」に関して、全体の結果としては、全面的に支持する回答〔=「自分でも言う(書く)・おかしくない」〕が過半数を占めている。それに対して、「高いところから失礼します」「つまらないものですが」「何もありませんが」のそれぞれにおける全面的な支持は半数以下であり、これ以外の選択肢にも回答が分散している。特に「何もありませんが」においては、全面的に支持する回答と、全面的に支持しない回答〔=「自分では言わない・おかしい」〕が同程度になっており、現代日本において感じられ方がさまざまであるようすが見て取れる。▶どちらの言い方が感じがいいか(ふさわしいか)を尋ねた設問「[遅くなって~大変お待たせして]しまい」「お越し[いただき~くださり]」「いつでも[かまいません~結構です]」「教えて[いただきたいです~いただけますか]」「ありがとうござい[ます~ました]」に関して、「[遅くなって~大変お待たせして]しまい」では「[遅くなって]のほうが感じがいい」が半数近くと比較的回答が集中しているが、これ以外の設問ではいろいろな選択肢に回答が分散している。 ▶[60歳以上]の集団では、「おかげさまで」「何もありませんが」「いつでも[結構です]」「ありがとうござい[ました]」への支持が相対的に多く、「〔メール冒頭で〕〔会話冒頭で〕お疲れさまです」への支持が相対的に少ない。また大卒者の集団では、「お足元の悪いところ」「おかげさまで」「〔メール冒頭で〕お疲れさまです」「[遅くなって]しまい」「お越し[いただき]」「教えて[いただけますか]」への支持が相対的に多い。▶10年前の調査との比較から、各年代にわたって共通に見られる傾向として、「〔メール冒頭で〕お疲れさまです」の一般化と、「つまらないものですが」の非一般化〔=衰退〕が観察される。
著者
塩田 雄大
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.72, no.12, pp.22-39, 2022-12-01 (Released:2023-01-20)

▶「ハザードマップ」「アスリート」「インフラ」は理解率が80%を超えており、一般的な語としてかなり定着しつつある。一方、「コンテンツ」は理解率が70%程度である。「意味をよく知っていた」という回答は、いずれの語に関しても80歳以上では少ない。またこの回答は、いずれの語に関しても大学卒では過半数を占めているのに対して、中学卒では半数以下である。▶外来語に対する考え方としては、〈外来語か翻訳表現か〉〈外来語の増加について〉については非保守的(革新的)な回答(「外来語を支持」「外来語増加に賛成」)が6割程度になっている。また〈和製英語について〉は、「ある程度はやむをえない」という現状肯定の回答が半数を超える。また、〈外来語か翻訳表現か〉〈外来語の増加について〉にはいずれも明瞭な年代差が見られ、若い年代ほど非保守的(革新的)な回答が多い。▶20年前の調査と比べると、いずれの語も理解率が全体として向上しており、また年代別に見てもそれぞれ同様の傾向である。ただし、「ハザードマップ」のようにこの20年で理解率が大幅に向上したものと、「コンテンツ」のように伸び幅が相対的には大きくないものがある。〈外来語か翻訳表現か〉に関しては、特定の年層において「加齢による保守化」が見られる。〈外来語の増加について〉と「和製英語容認」については、多くの年代において20年間の経過による考え方の変化はないが、2002年時の60歳以上においては、両設問に関して「加齢による寛容化」が見られる。
著者
塩田 雄大
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.251-264, 2014-05

複合動詞のアクセントは,前部動詞の反対の式をとると言われている(式保存の逆転現象)。前部動詞が平板式であれば複合動詞は起伏式に,また前部動詞が起伏式であれば複合動詞は平板式になるというものである。しかし運用実態としては例外も多く,前部動詞が起伏式・複合動詞も起伏式というものが,少なからずある。 この「複合動詞アクセントの式保存の逆転現象」という一般化を導き出したのは,三宅武郎(1934)である。本稿では,三宅が主な編集を担当した2冊の辞書(国語辞典のアクセント注記と,アクセント辞典)を中心として,その記述の中に「式保存の逆転現象」に合致するものがどの程度見られるのかをめぐって,考察を進める。 この2冊の辞書で示されている複合動詞のアクセントは,同時期のほかのアクセント辞典での掲載内容と比べて,「式保存の逆転現象」に忠実すぎる〔=おそらく実態とはいくらかのずれがある〕様相になっていることを,計量的に示す。 この事実は,一般的法則として三宅が帰納的に指摘した「複合動詞アクセントにおける式保存の逆転現象」が,その後に彼の成したアクセント記述・アクセント辞典編纂に対して,演繹的に「過剰適用」されてしまったこと,すなわち,「規範」の提示にあたって,「実態」の考察を通して得られた「傾向」を,「原則」にまで高めてしまったものとして,解釈することができる。
著者
塩田 雄大
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.62-75, 2021 (Released:2021-04-16)

日本語のゆれに関する調査」の結果について報告をおこなう。調査結果から、次のようなことを指摘する。 ▼「青紫蘇」については、連濁形で「「青じそ」と言う(「青しそ」とは言わない)」という人が、全体の8割を占めていた。 ▼「片側」については、連濁形で「「かたがわ」と言う(「かたかわ」とは言わない)」という人が、全体の9割以上を占めていた。 ▼「渓流釣り」については、連濁形で「「渓流づり」と言う(「渓流つり」とは言わない)」という人が、全体の3分の2近くを占めた。ただし20代では、この回答は半数強程度にとどまっていた。 ▼「立ち眩み」については、非連濁形で「「立ちくらみ」と言う(「立ちぐらみ」とは言わない)」という人が、すべての年代で9割以上を占めていた。 ▼「飲み口」については、「飲み口がいい」「缶ジュースの飲み口」のいずれの意味の場合でも非連濁形で「「のみくち」と言う」という人が、全体の3分の2程度を占めた。用法の違いによって連濁形・非連濁形を使い分けるといったような傾向は、はっきりとは見られなかった。
著者
滝島 雅子 山下 洋子 塩田 雄大
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.54-72, 2019

2019年3月に行った「日本語のゆれに関する調査」について報告する。▶第1章では、「やる」のかわりに「あげる」を使う用法について取り上げる。「植木に水をあげる」「子どもにお小遣いをあげる」「ペットの犬にえさをあげる」に関しては、「おかしくない・使う」という人が7割を超え、誤用とは言えない状況になっている。▶第2章では、気象情報で使うことばについて調査報告を行う。気温の言い方を「〇ド〇ブ」と言うか、「〇テン〇ド」と言うかを聞いたところ、「○テン○ド」を選んだ人のほうが多いという結果となった。また、「0度より低い気温」を言う場合、「氷点下」と「マイナス」のどちらを使うかを聞いたところ、「マイナス」が多い結果となったが、放送で使うことばとしては、自分で言う場合に比べ「氷点下」が多かった。▶第3章の外国語・日本語をめぐる意識については、日本人の大多数は、「(一部の人を対象にした教育ではなく)日本人全体への英語教育」、「(外国人向けの日本語教育よりも)日本人自身の外国語運用能力を高める教育の重視」を望ましいものととらえており、「(英会話には)まったく自信がない」、「小学校での英語教育には賛成」、「日本語を話す外国人が多くなった」と思っていることが明らかになった。外来語が増えることに対しては、「日本語をあいまいにすることにつながる」という意見が5割程度、「日本語を豊かにすることにつながる」という考えが4割程度になった。若い年代ほど英語(および外来語)への親和性が高く、高年層ではその反対に日本語をより重視するような傾向が見て取れる。
著者
滝島 雅子 山下 洋子 塩田 雄大
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.54-72, 2019 (Released:2019-12-20)

2019年3月に行った「日本語のゆれに関する調査」について報告する。▶第1章では、「やる」のかわりに「あげる」を使う用法について取り上げる。「植木に水をあげる」「子どもにお小遣いをあげる」「ペットの犬にえさをあげる」に関しては、「おかしくない・使う」という人が7割を超え、誤用とは言えない状況になっている。▶第2章では、気象情報で使うことばについて調査報告を行う。気温の言い方を「〇ド〇ブ」と言うか、「〇テン〇ド」と言うかを聞いたところ、「○テン○ド」を選んだ人のほうが多いという結果となった。また、「0度より低い気温」を言う場合、「氷点下」と「マイナス」のどちらを使うかを聞いたところ、「マイナス」が多い結果となったが、放送で使うことばとしては、自分で言う場合に比べ「氷点下」が多かった。▶第3章の外国語・日本語をめぐる意識については、日本人の大多数は、「(一部の人を対象にした教育ではなく)日本人全体への英語教育」、「(外国人向けの日本語教育よりも)日本人自身の外国語運用能力を高める教育の重視」を望ましいものととらえており、「(英会話には)まったく自信がない」、「小学校での英語教育には賛成」、「日本語を話す外国人が多くなった」と思っていることが明らかになった。外来語が増えることに対しては、「日本語をあいまいにすることにつながる」という意見が5割程度、「日本語を豊かにすることにつながる」という考えが4割程度になった。若い年代ほど英語(および外来語)への親和性が高く、高年層ではその反対に日本語をより重視するような傾向が見て取れる。