- 著者
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塩田 雄大
- 出版者
- 国立国語研究所
- 雑誌
- 国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, pp.251-264, 2014-05
複合動詞のアクセントは,前部動詞の反対の式をとると言われている(式保存の逆転現象)。前部動詞が平板式であれば複合動詞は起伏式に,また前部動詞が起伏式であれば複合動詞は平板式になるというものである。しかし運用実態としては例外も多く,前部動詞が起伏式・複合動詞も起伏式というものが,少なからずある。 この「複合動詞アクセントの式保存の逆転現象」という一般化を導き出したのは,三宅武郎(1934)である。本稿では,三宅が主な編集を担当した2冊の辞書(国語辞典のアクセント注記と,アクセント辞典)を中心として,その記述の中に「式保存の逆転現象」に合致するものがどの程度見られるのかをめぐって,考察を進める。 この2冊の辞書で示されている複合動詞のアクセントは,同時期のほかのアクセント辞典での掲載内容と比べて,「式保存の逆転現象」に忠実すぎる〔=おそらく実態とはいくらかのずれがある〕様相になっていることを,計量的に示す。 この事実は,一般的法則として三宅が帰納的に指摘した「複合動詞アクセントにおける式保存の逆転現象」が,その後に彼の成したアクセント記述・アクセント辞典編纂に対して,演繹的に「過剰適用」されてしまったこと,すなわち,「規範」の提示にあたって,「実態」の考察を通して得られた「傾向」を,「原則」にまで高めてしまったものとして,解釈することができる。