著者
境 希里子
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.69-82, 2014-01-31

日本語学校では,外国人留学生に,「せい」は好ましくない結果の原因・理由を表すと説明する。実際の社会での用い方は,もっと広いのではないか。境(2000)は「せい」と,「せい」と対をなす「おかげ」について調査した。本稿は,その経年変化調査報告である。まず,辞書における説明や例文をもとに,「おかげ」は好ましい結果,「せい」は好ましくない結果の原因・理由を表すと仮定した。論文での用例を調べ,両者は文章語ではないこと,感情表現であることを確認した後で,新聞記事等の用例を分析した。その結果,「せい」は「おかげ」より実際の社会で用いられる割合が高いこと,「せい」の用例に仮定と異なるものが多数あること,中立の「せい」(文の前件と後件を漠然と繋いでおり,「せい」特有の感情も入っていない用い方)が存在することを再確認した。初出のときは基本的な用い方を教えるにとどめるのは当然だが,日本語の学習進度に合わせて,実際の社会での広い用い方も説明すべきである。日本語が母語である者は,母語であるがゆえに見過ごしていることもある。日本語を客観的に見ることも忘れてはいけない。