著者
増井 香名子 岩本 華子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.72-85, 2022-02-28 (Released:2022-05-21)
参考文献数
14

本研究の目的は,DV被害者である親の子育ての実態を明らかにし,児童福祉分野における被害親の支援・介入方策の検討につなげることである.そのために子どものいるDV被害女性27人の半構造化インタビューの分析を行った.その結果,被害親の子育ては,加害親による暴力と支配により「親機能の奪われ」を経験すること,一方で暴力と支配に対抗し「親機能の必死の遂行」を行っているということが明らかになった.分析からは困難な状況のなかで子どもを守り子どもの成長を促進するという被害親のストレングスが見いだされた.また,子どもに関する多様な要因が関係の継続の有無に影響を与えていることが示された.分析結果から,加害親が被害親の子育てに影響をもたらす暴力と支配の内実とそれによる家族関係の力動をアセスメントすること,被害親のストレングスに焦点をあて,子どもの安全と福祉のために被害親と協働していくという新たな視点を提示した.
著者
増井 香名子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.57-69, 2012-11-30

本研究は,DV被害者が「暴力のある生活」から「暴力のない生活」へ自らの状況をどのように変化させるのか,被害者が加害者から「逃れる」「離れる」という行動のプロセスに焦点づけ,そのプロセスと実現に導く諸要素を明らかにし,支援のあり方を検討することを目的とし,元DV被害者へのインタビューを基に,M-GTAを用いて分析を行った.分析の結果,被害者は「決定的底打ち実感」をエネルギーとし<行動する主体としての自分の取り戻し>を行うなかで<決意行動をつなぐ他者存在の獲得>をし,<脱却の不可欠資源の確保>に至る.それらは一方向のプロセス的側面をもつが,一方で相互作用し<「パワー」転回へのスパイラル>を生み出していた.さらに,行動のプロセスのなかで被害者は<超自己の感得>をし,<自己のよみがえり>を経験していた.暴力関係から「脱却」する行動のプロセスは「パワー」転回のプロセスである.被害者の決意と行動をつなぐための支援が重要であると示唆された.