- 著者
-
増子 寛子
- 出版者
- 一般社団法人 日本農村医学会
- 雑誌
- 日本農村医学会学術総会抄録集 第56回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
- 巻号頁・発行日
- pp.215, 2007 (Released:2007-12-01)
<はじめに>マゴットセラピーは治癒しにくい四肢潰瘍に対し無菌マゴット(ハエ幼虫・ウジ)を用い治癒を促す治療方法であり今回、当整形外科においてはじめてマゴットセラピーを受けた患者の心理面の変化を振り返り精神的援助のあり方を考える機会を得たので報告する。
<事例> 73歳 男性 職業:無職 一人暮らし。平成18年12月8日駅で転倒し左脛骨腓骨骨折で入院。平成9年より糖尿病の既往あり。12月14日非観血的骨接合術施行されるも、術後創感染見られ、下肢切断が必要な状態となった。 本人より「足は切りたくない」と要望あり、本人と息子の同意のもと、平成19年1月26日より1クール3週間のマゴットセラピーを2クール施行された。
<心理面での変化の過程>一1クール目、いざ治療が開始されると創部からの悪臭もあり、食欲低下・嘔吐・仮面様顔貌と無口・下肢に対する否定的な言葉・治療の部分を見ようとしない等の心身両面の変化を来たした。治療が終了してから一旦症状が消失したが、7週間後、再度治療を行うと告げられた時点で再び嘔吐、食欲低下等が現れた。
看護介入としては、患者と頻繁に接触して肯定的な態度で対応し、その治療の経過及び予後に対する感情を分かち合い、話し合うようにした。又、創状態が徐々に良くなっていることを細かく伝えるとともに励ますことに努めた。プライバシー保護の為、マゴット使用中は個室対応とした。臭気対策には、部屋の換気回数を多くし、芳香剤を使用した。2クール目にはリハビリ・車椅子散歩・入浴等の介助等積極的に行った。これらにより、2クール目の途中より、徐々に食事量が増加し否定的な言葉が聞かれなくなり表情も和らぎ、処置に対しても協力的になり治療部分に目を向けたり、脱走したマゴットを直視し、つまむ場面も見られるようになった。
<考察>今回の事例は、マゴットセラピーによりボディイメージの混乱を来たし一時的にショックを受け、否定、無関心、抑うつ状態を経て治療終了までに自己のボディイメージの修正が出来たと考える。その経過において看護師自身初めての経験であり、計画的に十分なケアが出来なかった部分もあったが、患者の感情や思いを受容し、認め、励まし、暖かく寄り添う看護の基本的な態度が適応過程での助けになったのではないかと考える。
マゴットセラピー施行患者の看護においては、このよう心理的な反応があることも予測し、感情の変化の過程を注意深く観察し、その過程に応じた有効な援助を行なう必要があることを学んだ。今後も安心して治療を行ってもらえるための有効な援助を追及していきたい。