著者
増山 ゆかり
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.12-17, 2017-01-31 (Released:2018-07-31)

1957年にドイツでサリドマイド剤を含む医薬品が開発され、副作用がない夢の新薬と持てはやされ翌年の1958年には日本でも医薬品として承認されました。この医薬品の副作用によって、多くの人々の命が奪われた事件が「薬害サリドマイド事件」です。多くの消費者は、企業が示す安全性や有効性のエビデンスに国が保証し、それを製品化したのだから偽薬でも飲まされない限り、重篤な副作用は起きないと思っているのではないでしょうか。しかし、承認時におこなう治験や臨床試験だけで、すべての副作用を把握できるわけではありません。実際には、市場に出て初めて医薬品という商品は価値を問われるのです。何が起きたのか知る間もなく亡くなった人や、何の落ち度もない人が自分のせいだと苦しむ無念さは、今もこの国の何処かで哀しみを湛えているでしょう。副作用に科学的根拠を求めれば、被害の蓄積を待つということしかないのです。被害が何をもたらしたのか知り、それを教訓にする責任が社会にはあると思います。