著者
樋口 昭 蒲生 郷昭 中野 照男 増山 賢治 山本 宏子 細井 尚子
出版者
創造学園大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、2003年度から2005年度までの3年間、中国新彊ウイグル自治区において、フィードワークを行った。この地域の主要民族であるウイグル族の音楽を楽器に焦点を当て、調査・研究をおこない、あわせて、この地域は、今日、イスラム教を信仰するウイグル族などの人たちが生活を営むが、シルクロード交流の最盛期は、佛教王国が繁栄していたので、このふたつの時代の音楽は、何らかの影響関係にあったかを着眼点のひとつとして、この地域の過去と現在の音楽を調査した。佛教時代の音楽に関しては、この地域の残る石窟の壁画に描かれた音楽描写を調査した。調査した石窟は、キジル、クムトラ、キジルガハ、ベゼクリク、トヨクの各千仏洞であった。,これらの石窟に描かれる音楽は、楽器が多く、それらの楽器の形態の比較研究を行い、当時の音楽状況を探った。今日のウイグル族の音楽も同様に楽器に焦点を当てて、楽器の形態、製造工程、演奏法などを中心に、ウイグル族の楽器データを収集した。調査した楽器は、ラワップ、ドッタル、タンブル、ギジェク、サタール、ホシタル、シャフタール、チャン、カールン、ダップ、ナグラ、タシ、サパイ、ネイ、スルナイ、バリマンであった。これらの楽器について今日の形態を調査し、地域差、楽器改良による材質や形の変化をたどり、楽器がウイグル族の人たちのなかで、いかに扱われ、変遷を経たか考察した。この地域の楽器は、今日も改良を重ね、新しい楽器を考案続けている。蛇皮の使用が良い例である。これを用いはじめたのは新しい。改良や材質の変化、新楽器の考案は、つねに新しい音楽表現と結びついている。ウイグル族の最高音楽芸術である12ムカムの演奏が楽器を中心とする音楽文化の頂点にあり、そこに向かって、楽器は変容を重ねているのである。なお、佛教時代と今日のムカムに至る楽器文化には、直接の関係は見いだせず、佛教時代の楽器は、中国(漢族)、朝鮮半島、日本へと繋がる雅楽の楽器として位置づけられる。