著者
藤間友里亜 外山美樹
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

問題と目的 場面緘黙経験者は,その症状が消失し,寛解にいたった後にも不適応に陥ることが少なくないと指摘されている(久田・金原・梶・角田・青木,2016)が,これまで場面緘黙寛解後についての研究はほとんどされてこなかった。本研究では,場面緘黙の寛解を「日常生活において発話が必要とされる場面で話すことが一貫してできる状態」と定義し,場面緘黙時の経験や現在の状態にいたるまでの過程についての調査を実施した。それによって場面緘黙経験者が適応および不適応にいたる過程を明らかにすることを目的とした。方 法面接前アンケート 場面緘黙を経験した18歳以上の者21名に対し,年齢,性別,場面緘黙の基準にあてはまっていたか,現在は話すことが一貫してできるかを尋ねた。面接調査対象者:面接前アンケートの対象者のうち,寛解に達していなかった2名を除いた19名(男性5名,女性14名,平均年齢33.37±9.93歳)であった。調査内容と手続き:面接はSkype上で行った。主な質問は,「現在の生活で困っていることはありますか?」,「緘黙時にどのような経験をしましたか?」,「緘黙経験についてどのように受け止めていますか?」などであった。結果と考察 M-GTAを用いて分析を行い,21の概念と5つのカテゴリーが生成された。分析の結果作成された場面緘黙経験者の適応・不適応過程の結果図をFigure 1に示した。本研究の調査対象者は全員が寛解後に不適応を経験していた。寛解後不適応には,不安や人見知りといった気質と場面緘黙症状によって経験した緘黙時のネガティブな経験が影響していた。寛解後不適応から適応にいたる過程には不適応の改善が存在することが示された。総合考察 緘黙時に他者から責められることは自責につながっており,その自責は場面緘黙を知ることで解消されていた。よって,場面緘黙経験者本人が場面緘黙を知ることが重要である。また,周囲の人が場面緘黙を理解し,責めることを少なくすることも重要であると考えられる。本研究の対象者は,適応にいたっていても発話に対して苦手意識を持つ者が多かった。このことから,発話の苦手さによる困難を軽減するためには,発話能力を向上させるだけでなく,発話以外の対処も効果的に用いることが重要であると考えられる。 本研究より,場面緘黙寛解後にも困難を抱えることがあるという結果が得られ,寛解後の場面緘黙経験者の困難を軽減させる方法や適応にいたる過程についての研究は臨床的に意義があることが示された。