著者
多田 一臣
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究「『日本霊異記』の総合的研究において、最大の目標はわが国最古の説話集である『日本霊異記』の総合的注釈書を完成させることであったが、昨年度の段階で、ひとまずその完成を見ることができた。その成果は、筑摩書房から『日本霊異記 上・中・下』(ちくま学芸文庫)として刊行した。本年度は、その継続として、上記注釈書をもとにした事項索引の作成をおこなった。研究補助者の助力を得て、作成本文にもとづくデータ整理を行い、その結果『ちくま学芸文庫版『日本霊異記』語注・補説索引』を完成することができた.この索引は、科学研究費補助金の研究成果報告書として刊行した。同時に、昨年度からの継続として、二度にわたり沖縄諸島の祭祀儀礼の調査を行った とくに死者の霊魂を呼び寄せるシャーマン的巫者の活動に関する資料を収集した その結果、死者の霊魂の問題が、『霊異記』など本土の古代文献に見える信仰と深いつながりをもっていることを、あらためて確認することができた。この問題については、不充分ながら上記注釈書の中でも言及した.しかしながら、依然として残された問題は大きく、とくに鹿児島県奄美諸島のマブリワーシなどの事例について、来年度以降も調査をできるかぎり継続して、理解を深めていきたいと考えている。『霊異記』の本文調査も、昨年同様、いくつかの図書館・文庫等を訪れることで、写本類を披見、本文確定のための有益な情報を得ることができた。所期の目的は、おおむね達成できたと考えている。