著者
多田 宜文 小椋 義俊
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学生物理工学部紀要 = Memoirs of the School of Biology-Oriented Science and Technology of Kinki University (ISSN:13427202)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-11, 1998-06

土壌からより多くの種類の微生物を分離することを目的として、土壌の懸濁液を超音波で処理することを試みた。土壌懸濁液を氷水中で超音波処理すると、3分間処理を行った土壌から分離される生菌数(分離生菌数)は最大になるが、処理時間が10分を越えると無処理の場合より生菌数の分離率は低下した。30秒から60秒の処理を行った土壌からの分離生菌数は処理をしなかったものに較べて約3倍に増加した。コロニーとして分離できなかった菌(寒天培地上で増殖できなかった菌)も含めた全菌数では約7倍の増加がみられた。細かく処理時間を区切って行ったところ、処理時間が5分以内でも処理時間に比例した分離生菌数の増加は見られなかった。土壌の種類によって若干異なるが、処理時間5秒から10秒、30秒から1分、2分から5分の3点で他の処理時間よりも生菌数の高い分離率が見られた。それぞれのピークにおける分離生菌数はほぼ同数であった。これは試験に用いた5種の土壌すべてに観察された。菌体を染色して直接顕微鏡下で菌数を数え、コロニーとして分離されなかった菌も含めた全菌数も生菌数と同様に、どの土壌でも処理時間に比例した直線的な増加は示さず、処理時間が1分を越えると一旦は土壌粒子から遊離された菌が超音波によって物理的な破壊をうけることが示唆された。それぞれのピークに存在する微生物の種類を形態学的に調べると最初のピークには糸状菌がほとんど見られなかったことを除けば、それぞれのピークに存在する糸状菌、酵母、細菌の種類の割合はほぼ同じであった。特にグラム陰性桿菌について同定を行った結果、それぞれのピークに存在する細菌の種類はすべて異なっていた。以上の結果は超音波処理によって土壌粒子に強く結合している菌が遊離され、菌の数が種、数共に増えていることを示している。したがってpH調整や緩衝液の使用を含めて適当な条件下で超音波処理を行えば従来の方法では分離できなかった菌の分離が可能になるかもしれない。