著者
小椋 義俊
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.175-186, 2011 (Released:2011-09-28)
参考文献数
33

腸管出血性大腸菌(EHEC)は,出血性大腸炎や溶血性尿毒症症候群などの原因となる病原性大腸菌である。代表的なEHECであるO157については,2001年に全ゲノム配列が解読され,その後の解析でO157株間には有意なゲノム構造の多様性が存在することが明らかとなってきた。本研究では,その多様性を遺伝子レベルで詳細に解析し,病原遺伝子を含めた遺伝子レパートリーにも予想以上の多様性があることを明らかにした。また,O157以外の主要な血清型のEHEC(non-O157 EHEC)の全ゲノム配列を決定し,O157や他の大腸菌との全ゲノム比較解析を行うことにより,O157とnon-O157 EHECが異なる進化系統に属するにも関わらず,病原遺伝子を中心とした多くの遺伝子を共通に保持し,それらの共通遺伝子群の大部分はプロファージやプラスミドなどの可動性遺伝因子上にコードされていること,しかし,これらのファージやプラスミドは異なる由来を持つことなどを明らかにした。従って,O157とnon-O157 EHECは,それらの可動性遺伝因子群を介して類似した病原遺伝子セットを獲得することによって,それぞれEHECとして独立に進化(平行進化)してきたと考えられる。さらに,本研究では,腸管病原性大腸菌(EPEC)のゲノム解析を行い,代表的EPEC菌株が保有する病原遺伝子セットの全体像を明らかにした。
著者
小原 雄治 加藤 和人 川嶋 実苗 豊田 敦 鈴木 穣 三井 純 林 哲也 時野 隆至 黒川 顕 中村 保一 野口 英樹 高木 利久 岩崎 渉 森下 真一 浅井 潔 笠原 雅弘 伊藤 武彦 山田 拓司 小椋 義俊 久原 哲 高橋 弘喜 瀬々 潤 榊原 康文
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)『学術研究支援基盤形成』
巻号頁・発行日
2016

①総括支援活動では、支援課題の公募を行い、領域外有識者による審査委員会により選考し、支援を行った。経費上限設定など多くの採択ができるように努めた結果、応募188件、採択93件(採択率49.5%)となった。支援の成果として2017年度に54報の論文発表がなされた。②大規模配列解析拠点ネットワーク支援活動においては、最先端技術を提供するためにそれらの整備や高度化を進めた。遺伝研拠点では染色体の端から端までの連続した配列完成を目指して、ロングリードシーケンサー(PacBio Sequel)、長鎖DNA試料調製技術、さらに1分子ゲノムマッピングシステム(Irysシステム)の最適化を進め、実際の試料に応用した。東大柏拠点では、1細胞解析技術を整備し支援に供するとともに、Nanopore MinIONを用いた一連の要素技術開発を進めた。九大拠点では微生物ゲノムのNGS解析最適化を進めた。札幌医大拠点ではLiquid Biopsyによる体細胞における低頻度変異検出技術開発を進めた。③高度情報解析支援ネットワーク活動では、支援から浮かび上がった課題を解決するソフトウェアの開発を進めた。支援で特に活用されたものは、真核2倍体用denovoハプロタイプアセンブラPlatanus2(東工大)、染色体大規模構造変異高精度検出アルゴリズムCOSMOS、変異解析結果の信頼性を評価するソフトウェアEAGLE(以上、産総研)、エクソン・イントロン境界におけるスプライソソーム結合頻度の解析パイプライン(東大)、であった。また、CLIP-seqデータの解析パイプライン、高速オルソログ同定プログラムSonicParanoid、ロングリード向けアラインメントツールminialign(以上、東大)は今後の活用が予想される。高度化等の成果として48報の論文発表がなされた。
著者
多田 宜文 小椋 義俊
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学生物理工学部紀要 = Memoirs of the School of Biology-Oriented Science and Technology of Kinki University (ISSN:13427202)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-11, 1998-06

土壌からより多くの種類の微生物を分離することを目的として、土壌の懸濁液を超音波で処理することを試みた。土壌懸濁液を氷水中で超音波処理すると、3分間処理を行った土壌から分離される生菌数(分離生菌数)は最大になるが、処理時間が10分を越えると無処理の場合より生菌数の分離率は低下した。30秒から60秒の処理を行った土壌からの分離生菌数は処理をしなかったものに較べて約3倍に増加した。コロニーとして分離できなかった菌(寒天培地上で増殖できなかった菌)も含めた全菌数では約7倍の増加がみられた。細かく処理時間を区切って行ったところ、処理時間が5分以内でも処理時間に比例した分離生菌数の増加は見られなかった。土壌の種類によって若干異なるが、処理時間5秒から10秒、30秒から1分、2分から5分の3点で他の処理時間よりも生菌数の高い分離率が見られた。それぞれのピークにおける分離生菌数はほぼ同数であった。これは試験に用いた5種の土壌すべてに観察された。菌体を染色して直接顕微鏡下で菌数を数え、コロニーとして分離されなかった菌も含めた全菌数も生菌数と同様に、どの土壌でも処理時間に比例した直線的な増加は示さず、処理時間が1分を越えると一旦は土壌粒子から遊離された菌が超音波によって物理的な破壊をうけることが示唆された。それぞれのピークに存在する微生物の種類を形態学的に調べると最初のピークには糸状菌がほとんど見られなかったことを除けば、それぞれのピークに存在する糸状菌、酵母、細菌の種類の割合はほぼ同じであった。特にグラム陰性桿菌について同定を行った結果、それぞれのピークに存在する細菌の種類はすべて異なっていた。以上の結果は超音波処理によって土壌粒子に強く結合している菌が遊離され、菌の数が種、数共に増えていることを示している。したがってpH調整や緩衝液の使用を含めて適当な条件下で超音波処理を行えば従来の方法では分離できなかった菌の分離が可能になるかもしれない。