著者
石原 金由 多田 志麻子
出版者
ノートルダム清心女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究では,現代の子どもの睡眠習慣に焦点を当て,睡眠短縮,就床時刻の後退(夜更かし)が心身の健康状態にどのような影響を与えているかを検討することを目的としていた.研究計画に沿って,当該研究期間に2つの実験的研究,フィールド研究,小学校からの委託調査研究が実施された.概要は以下のとおりである:実験研究1 3名の児童・生徒を対象に縦断的に実施されている.1名につき3日間の測定日を設け,最初の2日は基準日,3日目は2時間睡眠を短縮する実験日であった.基準日の一方は,授業期間と同様の就床・起床時刻を設定し,他は授業期間よりも1〜1.5時間睡眠時間を延長した.測定された指標は,入眠潜時(1日5回測定),舌下温であった.入眠潜時は,基準日と比較して睡眠が短縮されると午前(10:00)及び夕方(18:00)で極端に短くなった.とくに午前中の眠気増加は全被験者に共通しており,睡眠不足の指標として有効であることが示唆された.また,体温リズムの頂点位相は年齢に伴って後退し,7-8歳で位相が確立されるとした過去の知見とは異なっていた.実験研究2 睡眠の短縮及び延長が日中の眠気に及ぼす影響を検討するために,女子高校生10名を対象に,実験研究1とほぼ同様の手続で実験が実施された.睡眠短縮によって日中の眠気は増大し,睡眠延長によって日中の眠気はわずかに改善された.主観的に睡眠不足を訴えていた者と充足している者とを比較すると,不足群では午前の眠気(10:00)が増加していることと体温リズムの位相後退が見出された.フィールド研究 2つのフイールド研究に着手し,研究1では,小学4年,6年,中学1年,3年を対象に,クラス単位(6年生を除いて各学年2クラス,6年生は1クラス)で体温,睡眠習慣,心身疲労の測定を実施した.体温リズムの位相は,小学生で学年差は見られなかったが,中学生では小学生と比較して約0.6時間後退していた.また,就床時刻の遅い者と早い者とで比較すると,心身疲労は遅い者で有意に高くなっていた.委託調査研究 4小学校の1-6年生を対象に,睡眠習慣,健康調査(ストレス反応質問紙),出来事調査(心理的ストレッサー質問紙,5・6年生にのみ実施)を実施した.心身の健康状態に影響する要因は,心理的ストレッサーだけでなく,睡眠習慣が心理的ストレッサーとほぼ同等に影響を及ぼしていることが明らかにされた.また,睡眠習慣について因子分析を行い,抽出された因子をもとに,生徒個人ごとの睡眠習慣の良否をチェックし,フイードバックした.