著者
多田隈 理一郎 (駄本 理一郎)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本年度の研究では、前年度の研究において人型7自由度スレーブアームの1自由度のみをPD制御して、残りの6自由度をインピーダンス制御するという方式であったスレーブアームの制御アルゴリズムを改良し、全ての自由度を等しくPD制御ベースでインピーダンス制御するという方式に切換え、複数の制御方式が干渉しあうということの無い、極めて安定したスレーブアームの動作を可能とした。また、5本指を持つマスタ・スレーブハンドをそれぞれマスタアーム、スレーブアームの先端に取り付け、ハンドも含めたバイラテラル・インピーダンス制御を実現した。スレーブハンドは、親指に3自由度、他の指に各1自由度を持ち、指の間隔を広げるための1自由度を含めた合計8自由度をもつ多自由度ハンドであり、既存のヒューマノイドロボットには不可能な繊細な作業やジェスチャが可能なものになっている。これを制御するマスタハンドも、同じく8自由度を持ち、外骨格型の機構により普段は指に触れることなく追従し、スレーブハンドの指が対象物に接触した場合のみ、操作者の指に触れてスレーブハンドの指先端に働く外力をフィードバックするという方式になっている。この新しい機構と制御方式により、同じく外骨格型のマスタアームと整合性の取れたマスタシステムが構成出来た。このような右腕のマスタ・スレーブシステムと左右対称は左腕のマスタ・スレーブシステムも現在作製中で、両腕を用いた複雑な作業も可能とするテレイグジスタンスロボットシステムを構築している。さらに、東京工業大学の広瀬・米田研究室との共同で開発している、ロボットの移動機構としての段差対応型の全方向移動車については、それが段差を乗り越えるときの手順である動作シーケンスの最適化を研究し、前年度に比べてより滑らかに、素早く段差を乗り越えることが可能になり、それを上半身型のロボットと結合して制御する移動作業の初期実験を行った。
著者
多田隈 理一郎 (駄本 理一郎)
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は、産業技術総合研究所においてロボット制御用の触覚ディスプレイの改良を進め、それを装着した状態でロボットを操作できるマスタシステムの実験を、多くの被験者について行った。具体的な実験としては、コンピュータ上のVR空間に人型ロボットの3次元CGによるシミュレータを構築し、ロボットの皮膚にバーチャルな触覚センサを配置して、その出力を触覚ディスプレイにより操作者の腕にフィードバックする遠隔臨場制御システムを用いて、2005年にMarc Ernst博士がNature誌で発表した、「人間の中枢神経系による視覚と触覚の情報処理が、ベイズ統計における最尤法に従う」ことを、有毛部皮膚を含めた腕全体でも成り立ち得ることを示すデータを得た。また、この実験をもとに、人間の有毛部皮膚における触覚の解像度を明らかにし、その解像度に基づくロボット体表面のセンサの最適な密度と、そのセンサの感じ取った力を人間の皮膚に再現するために必要な触覚ディスプレイの刺激子の解像度の最適値を求めた。ただ、当該研究員は2008年11月から東京大学の特任講師として異動し、またマスタシステムの構築や、それを用いたVR空間でのマスタ・スレーブシステムによる人間の視触覚情報処理体系の解析に時間を費やしたために、ロボットに対するセンサの配置やロボットの制御自体はVR空間における物理シミュレーションに留まり、実環境におけるロボット用の新型触覚センサの開発を行うまでには至らなかった。そのため、現在東京大学で作製している数々の生物型ロボットに触覚を付与し、その触覚をロボット操作者の体表面にフィードバックして提示する研究を継続することで、本研究でやり残したことを随時完了させてゆく予定である。