著者
松岡 理 榎本 好和 大久保 義夫
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獣医学雑誌 (ISSN:00215295)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, 1962-08

放射性降下物(Fallout)の牛乳への移行を研究する基礎の段階として, 家兎およびラットに Sr^<89> および Ca^<45> を投与して, Sr が乳に移行する状態を検討した. また投与された Sr および Ca の血中での消長と, 糞および尿への排泄の量的関係を追求した. その結果, 投与された Sr は血液から急速に消失すること, Sr は一般に尿より糞に多く排泄されること(家兎で投与後の24時間を除く), そして哺乳中のラットでは, その差が数倍から数十倍に及ぶことが明らかになった. そして Carrier-free の Sr では, 投与量の21%が10日間に排泄されるのに対し, Carrier を加えたものでは, これが53.1%であった. 乳中の Sr^<89> の濃度は, 血中濃度にくらべて非常に高い. これは血中の Ca 濃度と, 乳中の Ca 濃度との大差に由来するものと推定された. 一回注射によって投与されると, Sr の乳への移行は, 血中での消長と同様に, 急速に減少すること, また連続同量投与がくりかえされると, 乳への移行量は漸増することがわかった. さらに飲料水に Sr^<89> を混合して経口的に摂取させ, 乳への移行を経時的に追求した. その結果, 摂取量の約10%が吸収され, そのうち約20%が乳に移行するものと推定された. またこのとき, 飲料水に非放射性の Ca が大量に加えられると, 乳への移行が抑制される. しかし同様に非放射性の Sr が加えられても, 乳への移行は抑制されないことがわかった. 乳中の Sr が, 化学的にいかなる形で存在しているかを, 種々の方法で検討した. その結果, 大部分は乳中のカゼインと結合していることが明らかとなった. このことから, 乳製品への Sr の移行に一つの方向が考えられるので, in vitro で家兎乳および牛乳に Sr^<89>, Ca^<45> および Y^<90> を付加して実験した. またこれらを付加した牛乳を超遠心分離にかけ, レンネットで凝固させて実験した. これによって, 付加された Sr^<89> も Ca^<45> も, 生体を通過したものと同様に, カゼインと結合すること, およびレンネット凝固によって, カゼイン側, すなわちチーズ側に移行することが確かめられた. さらにこれらの場合に, 非放射性の Sr または Ca が, 同時に大量に加えられたとき, カゼインへの移行が, 量的にどのように変化するかを検討した. そしてこの現象が, 汚染牛乳の除毒に役立つ可能性について考察した.