著者
大井 映史
出版者
大手前大学・大手前短期大学
雑誌
大手前大学人文科学部論集 (ISSN:13462105)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.A55-A67, 2004

本論は死の間際に想起される思い、もしくは夢を描くアメリカ作家の作品を任意に三つ取り上げ、死に向かい合う主人公たちの生の最後の在り様を論じようとするものである。人間の無意識、すなわち本能世界は、差し迫る死の現実に対して、何を語り得るのか、語り得ないのか。いずれ死すべき人間は、生死の境をさ迷いながら、如何に死を準備して何を契機に死を受け容れるのか。最終的には全て捨て去り、肉体の衣を脱いで、この世を去るのが宿命である。死の間際に改めて許される生は、無論、現実的な視覚の捕捉しうるものではあり得ない。それでも、そこに最後の生が有るのであって、いずれ人は皆、その世界に入るのである。この世の生は、死を生きることの中に確かめられるものなのだ。