著者
岩田 隆 大亦 郁子 緒方 邦安
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.350-358, 1969 (Released:2007-07-05)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

前報で, 収穫後の果実の成熟に伴う呼吸型は3種に分類するのが適当であることを述べたが, 本報はこれをエチレンとの関係について検討したものである。一時上昇型 (climacteric 型) としてトマトおよびバナナ, 末期上昇型としてイチゴ•カキおよびモモ, 漸減型果実として温州ミカンを選んだ。(1) トマト緑白色果はエチレン処理によつて着色が促進された。同一圃場から得られた緑白色果でも, 遅い時期に収穫されたもののほうが効果が大であつた。呼吸の climacteric rise はエチレン処理によつて早く現われた。着色果に処理した場合には効果がなかつた。緑白色果を貯蔵すると, 着色に伴つて果実組織内のエチレン濃度が著しく増大し, また, 呼吸上昇以前にかなりの水準に達していた。(2) バナナ緑色果にエチレン処理を行なうと急速に成熟が進んだ。やはり climacteric rise が促進されたがピーク値は自然な climacteric の場合よりもかなり大きくなつた。(3) イチゴは, 緑色が消失して白色に近い状態となつた果実を収穫し, エチレン処理を行なつたが, 着色や軟化の進みかたに影響はなかつた。呼吸量についても処理効果はみられなかつた。果実組織内エチレン濃度は白色果でかなりの値となり, 以後はあまり変わらないようであつた。(4) モモ未熟果にエチレン処理を行なつても, 軟化の進展に影響はなく, 呼吸量もほとんど変わらなかつた。果肉組織内エチレン濃度は, かなり未熟な段階でも高い値となつた。(5) カキ未熟果はエチレン処理によつて急速に着色し, 軟化が進んだ。渋ガキは脱渋された。呼吸量は未熟果, 熟果ともにエチレン処理によつて著しく増大した。果肉組織内エチレン濃度は, かなり軟化した段階でやや大きくなつたが, 全般に低い値であつた。(6) 温州ミカン未熟果はエチレンによつて黄化が促進された。呼吸量は未熟果, 熟果とも処理によつて著しく増大した。エチレン処理によつて呼吸の増大した果実から, エチレンを除去すると, 呼吸量は無処理のものと同じ水準に戻り, これにエチレンを処理すると, また増大した。果実内エチレン濃度は全般に低い値であつた。(7) エチレン処理の効果の有無は, 処理時の果実内エチレン濃度が生理的に活性な値にあるかどうかによるものであり, エチレン処理に対する反応から climacteric の有無を区別することはできないと考えられた。