著者
山本 頼正 藤崎 順子 大前 雅実 平澤 俊明 五十嵐 正広
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.1492-1503, 2016 (Released:2016-09-20)
参考文献数
66

ヘリコバクター・ピロリ菌は慢性的な胃炎を惹起し,それに引き続き胃癌を引き起こす要因のひとつである.本邦では衛生環境の改善や,除菌治療の普及により,その感染率は徐々に低下している.しかし最近,ピロリ菌未感染の胃癌が報告されており,その頻度は全胃癌の0.42-5.4%であり,おおよそ1%である.ピロリ菌陰性胃癌の診断基準は,報告によって様々であり,いまだ確立されていない.われわれは,ピロリ菌陰性胃癌の必要最小限の診断基準として,内視鏡所見,病理所見,血清ペプシノーゲン法の2つ以上で陰性で,尿素呼気テストまたは血清IgG抗体が陰性,かつ除菌歴がない事を提案する.ピロリ菌感染以外の胃癌の原因としては,生活習慣,ウイルス感染,自己免疫性疾患,遺伝的疾患などいくつかの要因が関連することが知られているが,ピロリ菌陰性胃癌の主な原因はいまだ不明である.ピロリ菌陰性胃癌は,未分化型癌の頻度が高く,主に印鑑細胞癌であり,比較的若年者の胃中―下部の褪色調病変で,平坦・陥凹型の肉眼型が多い.一方で分化型癌は,未分化型癌に比して相対的に高齢者の胃中-上部に認める胃底腺型胃癌であり,粘膜下腫瘍様や陥凹型の肉眼型である.ピロリ菌陰性胃癌を早期診断することで,内視鏡切除などの低侵襲治療が可能となるため,内視鏡医はピロリ菌陰性胃癌の臨床所見,内視鏡所見について十分理解しておくことが重要である.