- 著者
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大和 吉郎
山桑 淑子
川守田 厚
- 出版者
- 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
- 雑誌
- 高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
- 巻号頁・発行日
- vol.42, no.4, pp.452-458, 2022-12-31 (Released:2023-01-17)
- 参考文献数
- 17
我々は, 右前頭葉内側面損傷により日常生活場面において左手で把持した物品を放せなくなった 40 歳代の右利きの女性について報告した。把持した物品を放せない症状は両手動作を必要とする一連の活動場面にて出現していた。物品を放すためには, 左手への触刺激や左手に対して放す意識を高めることが必要であった。頭部 MRI では, 右前頭前野内側部, 前補足運動野, 補足運動野, 前部帯状回, 脳梁膝部~体部に脳梗塞を認めた。本例の左手で把持した物品を放せない症状は, 右手動作に触発された左手の行為異常である拮抗失行の 1 症候と捉えられ, 脳梁膝部と体部および補足運動野の損傷により左手の把持にかかわる行為が解放されたことにより生じたものと考えられた。また, 外発的刺激, 左手の動作に意識を集中することは物品を放すことにつながっており, 左手の行為異常の抑制手段の 1 つとなっていたと推察された。