著者
大塚 哲平
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

放射性トリチウムによって汚染された金属材料の保管・廃棄にかかるハンドリングや除染時において、外部被爆や経口摂取による内部被爆を防止する観点から、金属表面および内部のトリチウム挙動を理解することは極めて重要である。金属材料表面には極めて高密度にトリチウムが偏在することが知られているが、この表面に偏在したトリチウムが及ぼす材料内部からのトリチウム放出に及ぼす影響は必ずしも明らかになっていない。本研究ではトリチウムトレーサー技術を利用し、金属中のトリチウム吸・放出挙動に及ぼす表面に偏在したトリチウムの影響を解明することを目的としている。水素溶解度や拡散係数が既知である各種金属にトレーサーレベルのトリチウムを含有した水素を高温気体吸収法(400℃,4kPa)により溶解し、これら金属の表面水素濃度をトリチウムイメージングプレート(IP)法により、また材料からの水素放出速度を液体シンチレーション計測法により測定し、両者の関係を調べた。この結果、表面に偏在した水素と内部に溶解した水素との存在量比によって、金属からの水素放出挙動が整理されることがわかった。ニッケル(Ni)のようなFCC金属では、内部に溶解した水素量が表面に偏在した水素量よりも多いため、金属からの水素放出は、見かけ上、内部に溶解した水素の拡散によるものである。表面に偏在した水素は、金属表面酸化膜に-OH基や吸着水として存在しており、深い捕獲サイトに捕獲されたものであると考えられる。このような表面捕獲水素の室温付近における脱捕獲速度は小さい。このため、内部に溶解した水素が放出されてしまえば、相対的に存在量が多くなった表面に偏在した水素の脱離が見えるようになる。同様に、表面酸化膜が水素を捕獲しやすい銅(Cu)やBCC金属からの水素放出は、内部に溶解した水素量が表面に偏在した水素量よりも少ないため、表面に偏在した水素の脱離によるものであるといえる。