著者
大島 千尋 佐藤 史奈 高橋 肇 久田 孝 木村 凡
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.168-175, 2019-12-25 (Released:2020-01-23)
参考文献数
15

ヒスタミンが多量に蓄積した食物を喫食すると,潮紅,頭痛,蕁麻疹などの症状を示すヒスタミン食中毒を発症する.本食中毒の防止および原因究明には,原因菌の特定が必須であるが,塩基配列決定による同定は操作が煩雑で解析に時間がかかるため,より簡便な手法が求められている.本研究では,ヒスタミン脱炭酸酵素をコードするhdcA遺伝子を対象として,高度融解曲線解析(High-Resolution Melting Analysis; HRMA)を用いた主要ヒスタミン生成菌の迅速同定法を開発した.はじめに,グラム陰性ヒスタミン生成菌のhdc遺伝子の配列から,種ごとに多様性が確認された配列部分にHRMA用のプライマーを設計し,HRMAを行った.まずTm Callingと呼ばれるPCR産物のTm値を測定するモードにより,Tm値の差からヒスタミン生成菌はA,B,Cの3グループに分類された.Aには陸生細菌であるMorganellaやEnterobacter, Raoutellaが属し,BおよびCには海洋性細菌であるVibrio属細菌やPhotobacterium属の細菌が属した.次に,グループAに分類された菌株についてのHRMAにより得られた融解プロファイルから,グループAに属するRaoultella属,M. morganiiおよびE. aerogenesは識別された.このことから,HRMAにより主要なグラム陰性のヒスタミン生成菌を簡易に同定することが可能であると示された.本法は,従来の塩基配列決定法と比べ,迅速かつ簡易にヒスタミン生成菌の種判別が可能である.