著者
大島 範子
出版者
一般社団法人 色材協会
雑誌
色材協会誌 (ISSN:0010180X)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.178-183, 2016-06-20 (Released:2016-09-20)
参考文献数
11
被引用文献数
1

魚の体色は皮膚に存在する特別な細胞“色素胞”によって発現する。色素胞は,細胞内に含有する色素物質の色を呈する光吸収性色素胞と,色素は存在せず,細胞内構造により光を反射して構造色を生じる光反射性色素胞に区別される。多くの色素胞は細胞膜に神経伝達物質やホルモンの受容体をもち,これらの物質が作用すると運動性を示す。魚の体色や模様の素早い変化は色素胞の運動によって誘起される。音声を発することのできない魚は体色や模様で仲間を認識し,それらの変化を利用してコミュニケーションを図っている。さらに派手な色彩を誇示して外敵から身を護る魚もいれば,逆に背景の色に溶け込んで自分の存在をカムフラージュすることにより,捕食者や被食者の目を逃れる魚種もいる。このように,魚にとって行動学的に重要な意義をもつ体色とその変化は,究極の生き残り戦略と言える。