著者
大崎 裕子 坂野 達郎
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.20-38, 2016 (Released:2016-08-06)
参考文献数
26

ソーシャル・キャピタル研究において,制度信頼とアソシエーション参加は一般的信頼の主要規定因とされるが,どちらがより有力な規定因であるかについては見解が一致していない.本稿の目的は,Inglehart and Welzelが論じる社会の価値体系の変化を考慮することで,対立的に論じられてきた2要因の一般的信頼に対する効果について統合的に論じることである.データに世界価値観調査と欧州価値観調査をもちい,価値変化により分類される前工業社会,工業社会,ポスト工業社会の3つの国家グループに対して,個人,国レベルにおける2要因の一般的信頼規定力をマルチレベル分析により検討した.その際,価値変化が2要因の内的構造に与える影響も考慮し,3社会のマルチレベル因子構造の比較も行った.マルチレベル分析の結果,個人,国レベルともに,(1)前工業社会では一般的信頼に対する2要因の規定力はほぼ同等であるのに対し,工業社会ではアソシエーション参加と比べ制度信頼が強い規定力を示した.(2)ポスト工業社会では工業社会と同様の傾向が維持されたが,制度信頼については秩序維持制度への信頼と政治制度への信頼の両方の効果が示された.これらの結果から,工業化による世俗的・合理的価値の高まりにより制度信頼の一般的信頼規定力が増大し,その規定効果はポスト工業化による自己表現価値の高まりによって多様化することが示唆された.