著者
大嶺 謙 永井 正
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

BCR/ABLキナーゼ阻害薬imatinibは慢性骨髄性白血病に対する有用な分子標的薬であるが、同剤の耐性機序の解明と有効な克服法の開発は重要な課題である。1.DNAマイクロアレイ法による、BCR/ABL陽性白血病細胞株KCL22とimatinib耐性株KCL22/SRとの遺伝子発現プロフィールの比較から、情報伝達系関連分子RhoAの耐性株における高発現が明らかとなった。新たなimatinib耐性株K562/SRとKU812/SRにおけるRhoAの発現をWesternblot法を解析し、特にKU812/SRで発現がきわめて増強していることを見いだした。2.新規Chk1阻害薬UCN-01をimatinibに併用することによりimatinibの耐性克服が可能であるか検討した。imatinib耐性BCR/ABL陽性細胞株は両剤の併用によってもアポトーシスの誘導がみられず、一方でG_0G_1期にある細胞比率の増加を認めた。さらにisobologramで細胞増殖に対する効果を検討した結果、何れの耐性細胞株でも相乗的増殖抑制効果は認められず、一部の細胞株ではむしろ拮抗的に作用した。従って、細胞周期に抑制的に作用する分子標的薬はimatinibの作用を阻害する可能性がある。3.様々な細胞内因子の機能調節に関与しているヘムのimatnib感受性への影響について検討した。hemin存在下で、KCL22細胞に対するimatinibのIC_<50>値は3.17倍に増加し、アポトーシスが誘導され、アポトーシス関連分子の増加が抑制された。heminはimatinibによるリン酸化BCR/ABL量の低下を阻害しなかったことから、BCR/ABLキナーゼ活性非依存的に作用しているものと推察された。更に、KCL22細胞にheminを添加することでYGCS遺伝子プロモーター活性の上昇および細胞内グルタチオン(GSH)濃度の増加を認めた。以上からヘムはimatinib感受性の調節に重要であり、その機序の一端はGSH合成系を介しているものと推察された。
著者
永井 正 大嶺 謙
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

1.Imatinibに対する耐性機序の解析-CML由来細胞株KCL22にheminを添加すると、imatinibに対するIC_<50>値が増加した。Hemin存在下では、imatinib添加後でもリン酸化Bcl2、BclXL、cleaved caspase 3、7,9、PARP等の量的変化が抑制されたことから、hemeはimatinibによるアポトーシスの誘導を阻害するものと考えられた。Heminの添加により、(1)AREを有する_-glutamylcystein synthetase(γ-GCS)軽鎖のプロモーター活性が増加し、(2)γ-GCSが律速酵素であるglutahioneの合成量の増加を認めた。さらに(3)γ-GCS阻害薬Buthionine sulfoximineを添加すると、heminによるimatinib感受性低下が部分的に回復した。この結果は、hemeによるNrf2活性の変化がimatinib感受性調節機序の一端を担っていることを示唆している。2.ImatinibとFarnesyltransferase阻害薬であるTipifarnibとの併用により、imatinib耐性株および親株で相乗的に細胞増殖が抑制された。この場合、細胞株によってアポトーシスの誘導と細胞周期阻害のそれぞれの重要性が異なっていた。次にTipifaarnibに対する耐性獲得機序を明らかにする目的で、ヒトCML急性転化由来細胞株K562を親株としてTipifarnibに対する耐性細胞株K562/RRを新たにクローン化した。K562/RRにTipifarnibを添加すると、K562と同程度にHDJ-2蛋白のfarnesylationが阻害された。従って、K562/RRにおけるTipifarnib耐性は、標的分子であるfarnesyltransferaseに非依存性の機序によるものと推察された。K562では、Tipifarnib添加によりアポトーシス関連分子の発現量が変化しAnnexin V陽性細胞数の増加を認めたが、同量のTipifarnibをK562/RRに添加してもこれらの変化を認めなかった。次に、DNAマイクロアレイ法によりK562とK562/RRにおける遺伝子発現プロフィールの差異について検討した。その結果、K562/RRでは細胞周期関連分子の他にβ-globinの発現増強が認められた。さらに、それぞれの細胞株におけるTipifarnib添加前後での遺伝子発現の変化をDNAマイクロアレイ法で検討したところ、β-globinの発現量がK562ではTipifarnib添加により増加するのに対し、K562/RRでは低下することが明らかとなった。この結果は、分化形質の発現と耐性獲得との関連を示唆している。