著者
千葉 則茂 大川 俊一 村岡 一信 三浦 守
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-II, 情報・システム, II-情報処理 (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.76, no.8, pp.1722-1734, 1993-08-25
被引用文献数
23

樹業のCGによる画像生成は,自然景観のシミュレーションにおいて重要な位置を占しめ.庭園や公園,街路樹の並木など種々の建設計画における景観評価や,ヘリコプターなどの低空速飛行機用フライトシミュレータやドライビングシミュレータのための景観シミュレーションにおいては,特にリアルな樹木の表現が必要となる.筆者らの一部はこれまでに,一様な枝の分布,広葉樹のような丸みのある樹冠の形成および自重によらない枝の枝垂れ形状を実現するためには,受光量不足による枝の枯死,枝先の向日性を考慮した生長モデルが有効であることを示している.本論文では,更に,樹木の性質である(a)頂芽優性,(b)休眠芽の休眠打破および(c)枝の幹化をも考慮した生長モデルによれば,これまでの生長モデルでは得られない複雑な形状の枝振りが実現できることを示す.この生長モデルでは,ある種の「植物ホルモン」の存在を仮定することにより,これらの性質を実現している.このことは,樹木全体の形状を監視し生長の仕方を制御する「中央制御装置」のようなものの存在を必要とせず,それぞれの芽が「ホルモン濃度」の絶対値や変化分に応じて発芽と生長を行うことにより,樹木全体としての形状が制御されるということを意味し,単純な生長モデルの開発という観点からも興味深いものとなっている.これまでにこのような生長モデルは提案されていない.