著者
大川愼吾
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学医学部紀要 (ISSN:00756431)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.87-92, 2003
被引用文献数
1

末梢性顔面神経麻痺では眼輪筋麻痺による眼裂の拡大だけでなく前頭筋麻痺による眼裂の狭小が重要な所見である。顔面神経支配の前頭筋は上眼瞼の挙上に関して補助的に働くので, その麻痺により上眼瞼の下垂 (眼瞼下垂) が起こると考えられる。このため, 前頭筋麻痺による眼瞼下垂が軽度であれば眼輪筋麻痺による眼裂拡大が前景に立つが, 重度になると逆に眼裂狭小が起こることになる。この眼裂狭小が時に非常に重度となることから, 上眼瞼の挙上に関する前頭筋の役割は極めて重要であると思われる。このことを説明するために, 上部顔面の皮膚の状態に注目した。すなわち, 高齢者では上眼瞼や額の皮膚の弛緩によって上眼瞼の下垂 (偽眼瞼下垂 pseudoptosis) が起こりやすいが, 前頭筋の働きによりこれが代償されると眼裂狭小にならない可能性がある。このような ''潜在化'' した眼裂狭小がある場合に前頭筋麻痺が起こると眼裂狭小が重度になると思われる。前頭筋麻痺による眼瞼下垂と上眼瞼挙筋麻痺による眼瞼下垂を鑑別する方法として, 験者の手で他動的に麻痺側の眉毛を釣り挙げて眼裂の大きさの変化をみる「眉毛挙上試験」が単純であるが非常に有用と思われた。