著者
佐藤 岬平 大日方 真史 Sato Kohei Obinata Masafumi
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学・教育実践 = Bulletin of the Faculty of Education, Mie University. Natural Science, Humanities, Social Science, Education, Educational Practice
巻号頁・発行日
vol.70, pp.285-299, 2019-01-04

本稿の目的は、シティズンシップ教育を労働・貧困問題から問い直し、「社会的シティズンシップ教育」というかたちでシティズンシップ教育を再検討することである。シティズンシップ教育(主権者教育)というと多くは「政治的」な問題(模擬投票や模擬裁判など)を扱うものと思われようが、本稿では「社会的」な問題(労働・貧困問題)からシティズンシップ教育を考えてみたい。シティズンシップを歴史的に検討してみると、「政治的シティズンシップ」と「社会的シティズンシップ」に分けることができる。そして、現在では「社会的シティズンシップ」は後景に退き、主権者教育というかたちで「政治的シティズンシップ」が注目されている。しかし、「非正規雇用の拡大」や「子どもの貧困」が問題となるなかで、学校教育においてこれらの問題にいかに取り組んでいくかがいま改めて問われている。本稿では、政治的なシティズンシップ教育とは別の方向性として、「社会的シティズンシップ教育」を示すことにする。この「社会的シティズンシップ教育」として、高校における2つの実践、「アルバイトの雇用契約書をもらってみる」実践と「貧困をテーマにした文化祭」実践を取り上げる。これらは、労働・貧困問題から出発して、その問題を公共性の次元に引き上げながら、政治的に覚醒させる実践となっているのである。
著者
大日方 真史
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.381-392, 2008-12

教育の私事化が進行する今日、学校教育の公共性の意義が根底から問いなおされており、公共性を実現する場および主体、そして教師の専門性がいかに構成されうるかは、重要な課題となっている。本稿は、そうした課題を捉えて、教育の公共性再構築の道筋を、教師・保護者間対話を成立させる教育実践の可能性に探るものである。対象として取り上げるのは、学級通信を継続的に発行する教師の実践である。考察にあたっては、公共性に関するハンナ・アレントの論を援用し、加えて「親密圏」概念を参照する。本稿を通じて、公共性における重要な局面として、保護者間の関係形成過程を含み込んだ対話の成立と、保護者の声が発せられる場の生成に着目し、それらの条件を明らかにする。さらに、教師・保護者間対話の成立における教師独自の専門的な位置と役割を明らかにして、公共性の実現可能性を見いだす。