著者
大村哲弥
雑誌
尚美学園大学芸術情報学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:13471023)
巻号頁・発行日
no.2, pp.39-56, 2003-03-31
被引用文献数
1

ギリシャ以来の大問題である音楽現象は、名曲・名演奏の仕組みを解明するという究極の大問題へ向かって、今日の音楽心理学、音響心理学等に引き継がれて取り組まれてきた。特に音楽心理学では1956年のL.B.MeyerのEmotion and Meaning in Music の歴史的論文に端を発してアメリカを中心に著しい研究成果を挙げてきたが、それでも究極の問題には辿り着いていない。私がこれまで発表してきた論文は、リズム、和声に関わる楽譜から読みとれる内容に限定され、音楽現象で最も重要な聴き手の意識の持続が何によってなされるのかという見地から判断すると、荒っぽい内容といわざるを得ない。私は音楽を、ベルグソン哲学に根拠をおく「凝縮された進化体験」と位置づけている。"今"は過去(記憶)と相互浸透されることで意味を生じ、鳴らされている今の音(現在)も,聴いた音(過去)との関係で音楽性を獲得できるといえる。こうした考えは、古典の名曲とりわけバッハ作品の分析から導き出されたものである。名曲の仕組みと音楽現象の解明とを結びつけることがこの論文の目的である。全体は考察編と楽曲分析から成り立つが、当論文はその中の前半部分の考察編からの抜粋で、楽曲の作品分析を主体とする後半は省かれている。