著者
大森 俊宏
出版者
東北大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

2020年度では,精子と精子の間に働く流体力学的相互作用に着目し,流体干渉による精子遊泳の変化を議論した.この解析を行うため,精子鞭毛の弾性変形と鞭毛周りの流れ場を連立する計算手法を開発し,2体精子の遊泳シミュレーションを行った.その結果,精子と精子が,体長程度の近距離にいる場合,鞭毛運動によって作られる流れ場の変動の効果が大きくなり,単体で遊泳する時よりも1割ほど早く遊泳できることを明らかにした.これは,精子が集まることで素早く遊泳できることを意味し,この協調遊泳の効果は受精競争に有利に働くものと推察できる.これらの結果をPhysics of Fluid誌(Taketoshi et al., Phys Fluids, 2020)に発表,また大学広報を通じてプレスリリースを行った.協調遊泳の効果は,多体になるほど大きくなるものと予想されるため,多体干渉時にどの程度の効果が出るのかを解析していく予定である.本手法を,繊毛・鞭毛を用いて遊泳する生物運動(繊毛虫の遊泳など)へと一般化し,繊毛運動によって生じる流体粘性散逸,遊泳効率の解析を行った.特に,繊毛の本数と細胞体の大きさとの関係に着目して解析を行ったところ,遊泳効率が最大となる繊毛密度が存在することを発見.得られた最適な繊毛数密度は自然界に存在する微生物との一致しており,この結果は現存する微生物は運動エネルギーを最小化していることを意味する.本研究結果はPNAS誌に掲載された(Omori et al., PNAS, 2020).