著者
大河原 正文 塚脇 真二
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地學雜誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.111, no.3, pp.341-359, 2002
被引用文献数
5 8

東南アジア最大の湖であるトンレサップ湖は雨季と乾季とでその水深・冠水面積が大きく変化し, このような季節的変動に支配された特異な堆積作用の発生が予期される。そこで同湖における堆積作用の解明へ向けて, 同湖に堆積物を供給する関連水系や同湖周辺に分布する沖積層の堆積物の粘土鉱物組成にもとづき, 同湖北部湖底堆積物に含まれる粘土鉱物の起源およびその時間的変化を調べた。<BR>トンレサップ湖北部の表層堆積物ならびに懸濁物からは, カオリン鉱物, イライト, スメクタイトおよび緑泥石が検出される。同湖とメコン河とを連絡するトンレサップ川の堆積物からもイライトおよび緑泥石が検出されるにもかかわらず, 同湖北部周辺の水系や沖積層の堆積物にこれらがほとんど含まれないことから, 同湖北部に分布するイライトおよび緑泥石はメコン河本流を起源とするものと判断される。<BR>一方, トンレサップ湖北部湖底から採集された柱状試料では, その上部約50cmの堆積物からはイライトならびに微量の緑泥石が検出されるものの, 同試料下部にはこれがまったく認められない。したがって, イライトおよび緑泥石がメコン河水系に由来するという表層堆積物解析結果にもとづき, 同湖における堆積物の供給源に大きな変化が発生したことが推定され, その年代は今から約5,000年前と考えられる。