著者
大津 拓也 澤田 康徳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<p><b>目的:</b>降水認識に関しては,これまで降水量に関する調査が主体で,防災上重要な降水量の空間的広がりに対する理解程度は明らかにされていない.降水量の空間的理解の深化には,降水量分布情報の活用が有効であり(島貫 1997),本研究では初等~中等教育段階における降水量分布情報の読図特性を明らかにする.</p><p><b>方法:</b>2017年6~7月に東京都内の小学校第5学年(97名),中学校第2学年(155名),高等学校第2学年(322名)を対象にアンケート調査を実施した.内容は,日本全国の降水量分布(8月)情報(段彩図および等値線図)について読図初見時に最初に着目した領域(着目域)と着目理由,さらに降水や気候に関する認識(天気に対する関心(5段階評価),最も印象に残っている雨に関する事柄(自由記述)などである.降水量分布情報の着目域は全400格子の着目域成分(有(1)無(0))に分け,それらに対してクラスター分析(Ward法)を施した.</p><p><b>結果:</b>着目理由の特徴は形式的なものと内容的なものに大きく分類できた.すなわち,形式-位置として居住地であること,図の中心であることや,形式-色として図内の着色が青(多い)/黄(少ない)であることなどがあげられた.また,内容-多寡として降水量の多さ/少なさ,内容-数値として降水量の値なども示された.着目域は8つに類型化され,関東挟域(Ⅰ),関東(Ⅱ),九州(Ⅲ),四国(Ⅳ),中部(Ⅴ),東日本,紀伊半島(Ⅵ),瀬戸内・関東(Ⅶ),瀬戸内(Ⅷ)である(図1).関東(Ⅱ)は着目理由が形式-位置(居住地)の割合が大きく(73.0%),天気に対する関心の上位得点(5・4点)割合が小さい(30.2%).一方,関東狭域(Ⅰ)の着目理由は内容-多寡(少なさ)の割合が大きく(55.6%),関心の上位得点割合も大きい(46.7%).また,四国(Ⅳ)は着目理由が内容-多寡(多さ)の割合が大きく(44.4%),関心の上位得点割合は小さい(25.9%).九州(Ⅲ)や中部(Ⅴ)は,着目理由が内容-数値の割合で大きく(15.6%や11.9%),関心の上位得点割合も大きい(40.3%や38.8%).瀬戸内・関東(Ⅶ)や瀬戸内(Ⅷ)は,着目理由が形式-色(少なさ)で上位得点割合が大きく(62.7%や51.5%),関心の上位得点割合も大きい(39.0%や39.5%).このように着目理由が形式-色および内容-多寡で割合が大きい場合,少なさに着目するタイプで関心の上位得点割合が大きい.また,内容-数値を理由とした割合が大きい九州(Ⅲ),中部(Ⅴ),瀬戸内・関東(Ⅶ)は自由記述において降水現象の仕組みに関する記述割合が大きく(10%以上),関心の上位得点割合も比較的大きい.なお,東日本,紀伊半島(Ⅵ)の下位クラスターで着目域が北海道の場合(12名),小学生の割合(58.3%)や形式的理由の割合(83.3%)が大きく,系列位置効果の関与が示唆される.一方,紀伊半島の場合(13名),着目理由は内容-数値の割合が大きく(23.1%),関心の上位得点割合も大きい(46.2%).さらに,着目域の分布箇所が重複しているⅠ・ⅡおよびⅦ・Ⅷの着目域の面積(S)は関東挟域(Ⅰ),瀬戸内・関東(Ⅶ)で小さい.この場合,内容-多寡(少なさ)の割合が大きいタイプⅠ,Ⅶで,着目域が限定的であった.等値線図では,中部(形式-位置)および四国(等値線の過密域:形式-線密度)に着目した頻度が高く,形式的理由が増大する.しかし,着目理由が内容-多寡(Ⅰ)や内容-数値(ⅢやⅤ)で割合が大きいタイプでは,等値線図においても内容的理由を記述した割合が大きい.すなわち,形式的・内容的な読図特性は図表現が異なっても維持される.対象者の読み取り方やその段階,属性に適応させた分布図情報や説明といった提供が極めて重要である.</p>