著者
井上 勝利 大渡 啓介 馬場 由成
出版者
日本イオン交換学会
雑誌
日本イオン交換学会誌 (ISSN:0915860X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.36-48, 1998
被引用文献数
5

希土類元素, 白金族金属, 銅 (II) , ニッケル, コバルト (II) , 亜鉛 (II) , 鉛 (II) , バナジウム (IV) , モリブデン (VI) およびアルミニウム (III) 等の卑金属に対する数種のコンプレキサン型化学修飾キトサンの吸着についての著者等の研究を概観した。グリシン, IDA, EDTAおよびDTPAのコンプレキサンの官能基の導入により吸着能は原料キトサンと比べて高められ, 吸着の起こるpHは低pH側にシフトした。特にEDTA型, およびDTPA型キトサンでは銅 (II) に対する吸着は10, 000倍高められた。<BR>EDTA型およびDTPA型キトサンは通常のキレート樹脂とは大いに異なり, 最も分離が困難な金属群である3価の希土類金属を認識, 相互分離することが可能であった。これはEDTAやDTPAの優れたキレート形成能力がこれらをキトサンのポリマー骨格に固定化した後も保持されるためである。<BR>一方グリシンやIDAの官能基を導入したものでは白金 (IV) やパラジウム (II) を吸着した場合, 塩酸による溶離特性が大幅に向上した。<BR>卑金属の吸着特性はEDTAやDTPAの官能基の導入により劇的に変化した。両者の金属の吸着の選択性の序列は以下の通りであった。銅 (II) =モリブデン (VI) >ニッケル>バナジウム (IV) ≫亜鉛=コバルト (II) ≫アルミニウム。このような選択性は広範な実用的利用の点で興味深い。実際, DTPA型キトサンを充填したカラムを用いてニッケルとコバルトの分離を行ったところ両金属の分離は満足すべきものであった。<BR>これらの化学修飾キトサンを用いて塩酸中からの卑金属の吸着も調べられた。その結果, 鉛 (II) が亜鉛などの他の金属から選択的に吸着された。吸着カラムを用いて大量の亜鉛からの微量の鉛の分離が行われ, 満足すべき結果が得られた。