著者
馬場 由成
出版者
佐賀大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究の目的は、蟹や海老殻のバイオマス廃棄物に含まれるキチンから容易に得られるキトサンを原料とする安価で選択性の高い新規の吸着剤を合成し、これを用いて貴金属イオンの選択的分離を行い、これらの分離・精製プロセスの大幅な省エネルギーとコスト削減を実現すると共に、バイオマス廃棄物の有効利用を図ることである。本研究ではキトサンが分子内に反応性の高いアミノ基を有していることに着目し、このアミノ基を利用してキトサンの各種の化学修飾を行い、貴金属イオンの新しい高選択性の吸着剤の開発を行った。キトサンおよびその誘導体による金属イオンの吸着については多くの報告がなされているが、これらは酸・アルカリに不安定であり工業的な吸着剤としては利用できない。工業的な吸着剤として利用するためには架橋が必要であるが架橋すればキトサンの官能基である一級アミノ基が潰され、金属の吸着能を低下させる。そこで本報告ではキトサンにキレート形成能を有する官能基を導入する際にキトサンのアミノ基をシッフ塩基にし、アミノ基を保護した状態で架橋反応を行った。その結果、ここで提案した架橋法を利用すれば、酸、アルカリに安定な、しかも貴金属イオンに対して高選択性を有するキトサン誘導体が得られることが明らかとなった。すなわちこうして架橋された2種類キトサン誘導体であるビリジルキトサンおよびチエニルキトサンを用いて塩酸溶液からの貴金属イオンの吸着特性を調べた。その結果、両者とも鉄、銅、ニッケル、コバルト、カドミウムおよび亜鉛等のベースメタルはほとんど吸着せず、金、パラジウムおよび白金に対して高選択性を有する吸着剤であることが明らかとなった。さらに市販のキレート樹脂などと比較すると、2〜3倍の優れた吸着容量を有することが見い出され、本研究で提案したキトサン誘導体が貴金属イオンに対して優れた選択性を有する新しい工業的吸着剤として期待されることが明らかとなった。
著者
井上 勝利 大渡 啓介 馬場 由成
出版者
日本イオン交換学会
雑誌
日本イオン交換学会誌 (ISSN:0915860X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.36-48, 1998
被引用文献数
5

希土類元素, 白金族金属, 銅 (II) , ニッケル, コバルト (II) , 亜鉛 (II) , 鉛 (II) , バナジウム (IV) , モリブデン (VI) およびアルミニウム (III) 等の卑金属に対する数種のコンプレキサン型化学修飾キトサンの吸着についての著者等の研究を概観した。グリシン, IDA, EDTAおよびDTPAのコンプレキサンの官能基の導入により吸着能は原料キトサンと比べて高められ, 吸着の起こるpHは低pH側にシフトした。特にEDTA型, およびDTPA型キトサンでは銅 (II) に対する吸着は10, 000倍高められた。<BR>EDTA型およびDTPA型キトサンは通常のキレート樹脂とは大いに異なり, 最も分離が困難な金属群である3価の希土類金属を認識, 相互分離することが可能であった。これはEDTAやDTPAの優れたキレート形成能力がこれらをキトサンのポリマー骨格に固定化した後も保持されるためである。<BR>一方グリシンやIDAの官能基を導入したものでは白金 (IV) やパラジウム (II) を吸着した場合, 塩酸による溶離特性が大幅に向上した。<BR>卑金属の吸着特性はEDTAやDTPAの官能基の導入により劇的に変化した。両者の金属の吸着の選択性の序列は以下の通りであった。銅 (II) =モリブデン (VI) >ニッケル>バナジウム (IV) ≫亜鉛=コバルト (II) ≫アルミニウム。このような選択性は広範な実用的利用の点で興味深い。実際, DTPA型キトサンを充填したカラムを用いてニッケルとコバルトの分離を行ったところ両金属の分離は満足すべきものであった。<BR>これらの化学修飾キトサンを用いて塩酸中からの卑金属の吸着も調べられた。その結果, 鉛 (II) が亜鉛などの他の金属から選択的に吸着された。吸着カラムを用いて大量の亜鉛からの微量の鉛の分離が行われ, 満足すべき結果が得られた。
著者
塩盛 弘一郎 馬場 由成 河野 恵宣 羽野 忠
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.453-458, 1994-05-15 (Released:2009-11-12)
参考文献数
11

283-323Kで, 活性炭に対する酢酸, プロピオン酸, クロトン酸, シュウ酸, コハク酸, イタコン酸, マレイン酸, 乳酸, クエン酸の吸着平衡を広い濃度範囲で測定した.脂肪酸の吸着量は温度と共に減少した.吸着挙動は, 低濃度域ではLangmuir型単分子吸着式, 高濃度までの広い濃度域ではB.E.T.型多分子層吸着式で説明された.B.E.T.式中の相対濃度として, 脂肪酸の液体状態における純物質濃度に対する平衡濃度の割合を用いて, 全濃度域での吸着平衡結果を説明することができた.単分子層および多分子層吸着平衡定数は温度が高くなると減少し, 脂肪酸の疎水性と相関される傾向を示した.
著者
馬場 由成 大江 薫
出版者
宮崎大学学内合同研究
雑誌
地域産業とエコサイエンス : 環境の世紀-循環型社会をめざして : 研究成果報告書
巻号頁・発行日
pp.44-47, 2002 (Released:2008-02-01)

生体起源の吸着剤である竹炭、ヤシ殻活性炭を用いた硝酸性窒素の除去システムを構築するために、水圏からの硝酸性窒素の吸着挙動を調べた。各吸着剤における硝酸イオンの吸着はpH2-4の領域で最大を示した。吸着剤における硝酸イオンの吸着はLangmuir型を示し、吸着剤表面に単分子層吸着していることがわかった。Langmuir式に基づいて求めた竹炭、ヤシ殻活性炭の吸着平衡定数は2.45、2.72dm3/mmol、飽和吸着量は0.0598、0.266mmol/gであった。比表面積が竹炭の約3倍大きいヤシ殻活性炭が最も高い吸着量を示し、比表面積が硝酸イオン吸着に対して重要な因子であることを示唆している。竹炭、ヤシ殻活性炭の硝酸イオン吸着における微分吸着熱は小さく、硝酸イオンと吸着剤表面との結合は非常に弱いことが示唆される。