- 著者
-
大澤 雅俊
山方 啓
- 出版者
- 北海道大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2006
本研究は、固液界面で二次元的なパターンを形成しながら進行する反応(Chemical wave)を赤外分光法でリアルタイムに追跡する新しい手法を開発することを目的とした。他の光学顕微鏡と異なり、特定官能基の吸収の強弱をイメージ化すれば、時々刻々と変化する分子の分布と反応の広がりが観察できると期待される。ただし、対象は単分子以下の超微量であり、溶媒の吸収に妨害されるので、通常の赤外顕微分光では実現が難しい。本研究では、内部反射配置の表面増強赤外分光法(ATR-SEIRAS)でこの問題を解決することとし、光源、球面鏡2枚、波長可変赤外フィルター、チャンネルマルチチャンネルMCT検出器からなる最大限に簡素で明るい赤外分光イメージング装置を製作した。通常の透過条件での測定では何ら問題がないことを確認した。また、パターン化した電極を用いた固液界面の測定でも、20μmの空間分解能が得られた。これと並行して、Chemical waveがもっとも形成されやすいと考えられるPt電極表面でホルムアルデヒド酸化の(空間平均での)電気化学振動を高速スキャンFT-IRで検討し、振動がフォルメート種を中間体とする主反応経路と、被毒種COを経る副次経路の相互作用の結果生じることを明らかにした。この測定から、COが何らかの空間パターンを形成することが示唆されたので、最終段階として、製作した赤外分光イメージング装置を用いた電極表面の観察を行い、実際にPt電極表面上の吸着COが不均一な分布をしていることを見出した。ただし、装置上の制約のため、当初計画したビデオレートでの高速イメージングには到達できなかった。その他、イメージングの基礎として、基板となる電極の新しい作製法を開発した。また、その他種々の反応解析を行い、それぞれにおいて新しい知見を得たが、いずれも空間パターンの形成は認められなかった。