- 著者
-
山本 雅博
- 出版者
- 日本ポーラログラフ学会
- 雑誌
- Review of Polarography (ISSN:00346691)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.1, pp.11-30, 2010-05-31 (Released:2010-06-18)
- 参考文献数
- 11
- 被引用文献数
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電気二重層は電極電位を決定するので電気化学において最も基本的な概念であり,スーパーキャパシター等の応用でも重要であるが,電気化学を専門としている学生諸氏の間で電気二重層の理屈はよくわからないとう声を良く聞く。帯電した電極を対(たい)イオンが遮蔽する静電相互作用 (Poisson方程式)とそのイオンが熱的に散らされて分布( Boltzmann分布)することを同時に考慮(非線形微分方程式)しなくてはならないからであろう。従って,電気2重層の理論は,電磁気学と (統計・ )熱力学に基礎を置く。化学系の学生は,電磁気学(より正確にはガウスの法則だけで十分だが)を理解しにくいてことが,よくわからない原因であるようだ。以下その点も考慮して解説した。付録に,ガウスの法則の説明を書いたので,電磁気学の復習も含めてそこから読んで欲しい。 ここでは, Gouyによって定式化された100年の歴史をもつ Gouy(-Chapman理論) [1, 2] 1および Stern[3]による補正をまず述べる。電気二重層の測定結果の解析においては,大抵の場合この GCS(Gouy-Chapman-Stern)理論で説明が(定性的にももちろん定量的にも)可能である。その後, Grahameが GCS理論に特異吸着の効果を入れてこの理論はある意味完成した [4]。この GCSG理論の基本方程式である非線形 Poisson-Boltzmann式を数値的に解くことにより,帯電界面をもつ3次元構造体(たとえばタンパク質)の電気二重層構造が明らかとなった。 その GCSG理論では,溶媒は無構造誘電体で,イオンの大きさ,イオン間の相互作用も考慮されてないので,電極が強く帯電している場合や電解質濃度が高い場合には一般には正しくない。紙面の都合で,その後進展してきた分子シミュレーションによる電気二重層の数値解については改めて述べたい。長距離力であるクーロン相互作用が帯電した界面で正確に考慮されてない分子シミュレーションの結果の取り扱いには慎重さを要することと,実験で得られている微分キャパシタンスの結果を再現したシミュレーションはまだないように思う。電解質水溶液の場合,溶媒分子数に比べて電解質のイオン数が少なく,シミュレーションで集団平均・時間平均をとることが困難であることも原因のひとつである。