著者
大田 克洋
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.289-304, 2009-03-16

食料安全保障を,供給の安定性,価格の安価性,品質の安全性の3面からとらえ,その確立に向けての現状の把握と課題の検討を行った。コメ,小麦等主要穀物の需給構造の長期変容パターンの特徴を実証分析するための枠組みとして,自給指向型,輸入依存型,輸出指向型の3つの需給構造変容の5段階モデルを作成し,米国農務省等の統計データを利用して,日本を中心に主要食料の需給構造の変容過程と現段階の特徴をモデルに照らして同定した。それにより,例えば60年代以降の日本のコメ需給は,国内需要が国内生産で賄われる自給指向型の変容過程をとりながらも,その現段階は,需給量が一貫して漸減する「成熟段階」にあることが示唆された。また日本では,食料安全保障の確立には食料自給率の向上が不可欠とする考えが一般的であるのに対し,筆者は,単純な国産比率である「自給率」の意味の「限界」と,上記3側面で見る安全保障への無関係さと無力さを,小麦の自給化政策の効果や生鮮かぼちゃの「自給率の季節変動」の実証分析によって明らかにした。結論として,世界の食料安全保障は,世界各国の自由貿易体制下の協調と国際的な相互協力の結果として保証されるものである以上,日本の食料安全保障もその枠組みの中で,国際協調と自由貿易による便益を活用しつつ,地球規模的な視野でその確立を図るべきことを提言した。