著者
小泉 武夫
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.219-229, 2010-03-15

今日,わが国に於いて焼酎は一大発展を遂げ,今やその消費量や生産量は日本酒を大きく引き離している。ところがこの焼酎は,一体どこから渡来してきたのかは明らかになっていない。大陸説,中国説,南方南洋説などさまざま論じられているが,今から400年以上も前のことであるので正しい検証はされていない。つまり日本の焼酎の歴史の原点部は今もって明らかにされていないのである。そこで筆者は中国,そして東南アジアの諸国を20年近く調査してきて,そのルーツが中国雲南省に在り,それがメコン川を通して南方に渡り,シャム(今のタイ国)から琉球を経て薩摩に来たことを,多くの文献や,現地での証拠写真などから検証し,証明した。そしてその焼酎が日本に入ってきてから,今度はこの国独自の知恵や発想によってさらに技術的発展を遂げ今日に至ったことを論じる。
著者
金 玲花 中野 亜里沙 安藤 元一 Kim Ryonghwa Arisa Nakano Motokazu Ando
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.137-144, 2014-09

自由行動ネコが野生鳥獣にどのような捕食圧を与えているか,神奈川県厚木市で調査した。神奈川県自然環境保全センターの傷病鳥獣保護記録を調べたところ,保護鳥獣の10%はネコに襲われたものであり,キジバトやスズメなど地上採餌性の種,あるいはヒヨドリなどの都市鳥が多かった。育雛期である5-7月には鳥類の巣内ヒナが半数以上を占め,ネコの襲いやすい位置に営巣するツバメなどが多かった。同市の住宅地帯および農村地帯におけるアンケート調査では,ネコは13%の世帯で飼育されていた。このうち屋外を自由行動できる飼いネコの比率は,住宅地で29%,農村で59%であり,生息密度に換算すると住宅地で2.2頭/ha,農村で0.35頭/haと推定された。こうしたネコが家に持ち帰る獲物の種類は,住宅地では小鳥と昆虫が多く,農村ではネズミ,小鳥や昆虫など多様であった。持ち帰った獲物の半分以上は食されなかった。これらのネコが年間60頭程度の鳥獣を捕らえると仮定すると,1年に捕食される鳥獣はそれぞれ132頭/ha,21頭/haと推定された。飼いネコによる生態系への影響を避けるためには,室内飼いが望まれる。
著者
吉田 光司 亀山 慶晃 根本 正之 Koji YOSHIDA KAMEYAMA Yoshiaki NEMOTO Masayuki
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.10-14, 2009-06

ナガミヒナゲシが日本国内で生育地を拡大している原因を解明するため、1961年に日本で初めて帰化が報告された東京都世田谷区と、1990年代以降急速に生育地が増加した東京都稲城市で生育地調査を行った。ナガミヒナゲシの生育地数は、世田谷地区と稲城地区の双方とも道路植桝で最も多く、次いで駐車場や道路に面した住宅地となり、自動車の通過する道路周辺に多いことが判明した。ナガミヒナゲシの生育地は道路植桝から周辺の駐車場へと自動車の移動に伴って拡大したと考えられる。この過程を検証するため、ナガミヒナゲシの在・不在データを応答変数として、道路植桝から駐車場までの距離と舗装の有無、それらの交互作用を説明変数とするロジスティック回帰分析を行った。AICによるモデル選択の結果、世田谷地区ではいずれの説明変数(距離、舗装の有無、それらの交互作用)も選択されなかったのに対し、稲城地区では距離(P=0.07)および距離と舗装の有無の交互作用(P=0.04)がナガミヒナゲシの存在に負の影響を及ぼしていた。これらの結果から、(1)帰化年代の古い世田谷地区では生育地拡大が完了しており、主要道路からの距離や舗装の有無とは無関係にナガミヒナゲシが生育していること、(2)稲城地区では生育地拡大の途上であり、その過程は道路植桝からの距離だけでなく、距離と舗装の有無との交互作用によって影響されることが示唆された。
著者
大岩 幸太 宮崎 雪乃 岩田 萌実 小川 博 安藤 元一
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.200-208, 2014-12-15

厚木市の中山間地域と平地農業地域における獣害に対する住民感情を2009-2010年にアンケート調査し,1,462件の回答を得た。販売農家は中山間地域で9割以上,平地農業地域で5割が獣害被害を受けていた。いずれの地域でも農作業への関わりの高い住民は野生動物に強い「怒り」を感じるのに対し,農作業への関わりが低くなると「かわいい,うれしい」と感じる傾向が見られた。捕獲駆除については,中山間地域では農作業に関わりの高い住民の賛成率が高まる傾向があったのに対し,平地農業地域では逆の傾向がみられた。性別で見ると,男性の捕獲駆除賛成率が中山間地において高かったのに対し,女性における地域差は少なかった。行政への要望として,中山間地域では情報提供や資金・物品提供など農地を守るために直接役立つ対策への要望が強かったが多いのに対し,駆除の促進への要望順位は低かった。しかし,アンケートから判明した住民の求める要望と,行政が行っている実際の獣害対策を比較すると,住民の要望が反映されているのは駆除対策だけであった。
著者
増田 宏司 田所 理紗 土田 あさみ 内山 秀彦
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.151-155, 2015-12-18

ペット(犬,猫)を亡くした経験を持つ20代前後の飼育経験者に対して自由記述式でアンケートを集め,「もう一度,亡くしたペットに会えるなら,何をしてあげたいか?」について質問した。回答として得られたものをテキストデータ化し,テキストマイニングを行い,文字数,単語数を比較した。また分析により抽出された名詞を基準に,回答をカテゴリーデータ(1/0)に変換後,数量化III類解析を施した。アンケート実施により,犬の飼育経験者141名,猫の飼育経験者55名から有効な回答が得られた。その結果,猫の飼育経験者の回答文は文字数,単語数共に犬の飼育経験者よりも有意に多いことが判明した。さらに,数量化III類解析(n=149)においても,犬と猫の飼育経験者で有意な差が認められ,犬の飼育経験者は懐古的な内容を,猫の飼育経験者は惜別的な内容を記述すると考えられた。また,犬の飼育経験者の文字数,単語数は,飼育していたイヌの大きさによって有意に異なった。
著者
川嶋 舟 福本 瑠衣 内山 秀彦 Schu Kawashima Fukumoto Rui Uchiyama Hidehiko
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.159-164, 2013-12

馬は使役動物として人の生活において重要な役割を担ってきた。近年では動物介在療法へも応用を広げ,人と馬との新たな関係を構築しつつある。しかしながら,馬の認知能力については,科学的な研究不足から長い間正しい理解がされずにいた。馬の認知能力を理解することは,飼育方法・訓練の効率化,飼育環境の適切な改良,そして馬を用いた福祉的活動の発展といった応用につながると考えられる。そこで本研究は,馬の認知能力の中でも,特に人の認識状況下における聴覚および視覚情報認知の関係性を明らかにし,馬と人との関係性について考察することを目的とした。十分にトレーニングされた馬において,管理で用いられる個体の呼称や指示に関する音声刺激を提示し,馬の行動を観察,得点化した。このとき実験補助者,馬の管理者,既知の人物,未知の人物の音声刺激に対する得点の比較を行った。得られたデータから,耳の動き,目線,接近行動に有意な点数の違いがみられた。耳の動きは,未知の者と比較したとき,有意に実験補助者ならびに馬管理者の音声刺激に対する点数が高く注意を向けていた。また,目線は既知の者より未知の者が有意に高い点数となり未知のものを注視した。さらに人に対する接近行動は,未知の者と比べ管理者や既知の者の音声刺激に対し有意に近い位置を示した。これらの結果から,馬は聴覚,視覚によって人ならびに状況を認知し,人物を弁別と記憶をしていることが示唆された。またその認知過程には第一に聴覚情報を受容し,特に未知の者など認識がなく情報の一致性がない場合,視覚情報を用いてこの統合を行い,行動に移行すると考えられた。これらのことは,馬との相互関係において,積極的に声をかけることが動物介在療法など様々な活動下での対象者の認識を強め,あるいは信頼関係という領域を築く上で極めて重要であると考えられる。
著者
土田 あさみ 秋田 真菜美 増田 宏司 大石 孝雄 Asami TSUCHIDA AKITA Manami MASUDA Koji OISHI Takao 東京農業大学農学部バイオセラピー学科伴侶動物学研究室 埼玉県吉川市健康福祉部 東京農業大学農学部バイオセラピー学科伴侶動物学研究室 東京農業大学農学部バイオセラピー学科伴侶動物学研究室 Department of Human and Animal-Plant Relationships Faculty of Agriculture Tokyo University of Agriculture National Pension and Health Insurance Division Yoshikawa City Office Department of Human and Animal-Plant Relationships Faculty of Agriculture Tokyo University of Agriculture Department of Human and Animal-Plant Relationships Faculty of Agriculture Tokyo University of Agriculture
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.119-125,

ノラ猫問題を解決する一つの対策として地域猫活動が各地で行われており,一部の行政でその活動を支援している。そこで,その支援状況とその効果を検討するために,全国の自治体を対象として調査用紙を配布し,2008年度における情報を収集した。その結果,東京都特別区で地域猫活動を支援する行政が多く認められた。また,政令指定都市,中核市および都道府県のいずれの行政でも地域猫活動の地域がないと回答したところが多かった。条例や制度,避妊去勢手術費の補助,講習会開催等の支援措置は,東京都特別区および東京都市部で多く,中核市および都道府県では少ない状況であった。今回の調査では地域猫活動を行政が支援することが,猫に関する苦情の減少,猫の処分数の減少,また住民間の親密の増加等に対して有効であるかどうかについては明らかにならなかったものの,行政機関がノラ猫対策を早めにとることや,その支援を積極的に行うことなどが,猫の処分数を減らすのに有効である可能性が示唆された。Activities by community volunteers who care for stray cats, such as neutering and caring for stray cats, were supported at various administrative levels in Japan. In order to identify the status of the activities in which support is provided by the administrations and to assess the effect, we conducted a questionnaire survey to each government in 2008. The activities to support volunteer activities related to stray cats was significantly higher in the 23 wards of Tokyo than in other cities in Tokyo. Many of the local administrations did not have information about whether there were any such activities. There were significantly more administrations in the 23 wards of Tokyo and the other cities in Tokyo than in local administrations, which supported the activities such as enacting ordinances and animal protection promotion plans, and providing financial assistance to cover the cost of sterilization surgeries. This study could not clarify the effects of these support activities on reducing the number of and the nuisances caused by stray cats. However, it was suggested that efforts at the early period by every administration to assess the situation of stray cats and offer support activities would make the animal protection plans more effective.
著者
高中 健一郎 山縣 瑞恵 安藤 元一 小川 博 TAKANAKA Kenichiro Mizue YAMAGATA Motokazu ANDO Hiroshi OGAWA
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.111-117, 2011-09

側溝に落下して死亡する小型哺乳類が多いことから,本研究では側溝の深さと側溝内の水位が小型哺乳類の脱出成功率にどのように影響するかを調べると共に,保全対策として脱出用スロープの形状を検討した.脱出できなくなる道路側溝の深さは,モグラ類(ヒミズ,アズマモグラおよびコウベモグラ)では15cm,ジネズミでは24cm,スミスネズミおよびハタネズミは30cmであった.アカネズミおよびヒメネズミは深さ30cmの溝からは概ね脱出可能であり,静かな環境では深さ45cmからも一部の個体が脱出できた.脱出に際して地上性のアカネズミはよじ登りよりもジャンプを用いる傾向が強く,半樹上性のヒメネズミはよじ登りを多用した.側溝内に止水がある場合,ネズミ類は小さな側溝からは水位にかかわらず脱出できたが,大きな側溝ではスミスネズミやハタネズミは水位1cm以上で,アカヤズミとヒメネズミは水位5cm以上で脱出できない個体が現れた.ネズミ類の保護対策としては側溝の深さをできるだけ浅くすることが望ましく,モグラ類についてはスロープ付き側溝を用いることが望ましい.スロープには1.5~4.5cm間隔で段差を付け,傾斜角度を45°以下にするとともに,スロープを側壁で挟んで通路幅を5cm程度にとどめることが望ましい.
著者
山田 啓貴 安藤 元一
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.57-62, 2015-06-19

近年における野生動物自動撮影カメラの大部分は,焦電型センサーを用いており,背景温度と対象動物の体表温度との温度差を検知して作動する。本研究の目的は,背景温度と動物体表温度が動物の検知率に与える影響を明らかにすることである。実験には3機種のカメラ(FieldNote Duo,LtlAcorn5210およびTrophyCam Basic Model)を用い,表面温度38℃の被写体の検知率をさまざまな背景温度のもとで調べるとともに,数種類の鳥獣の体表温度を異なる気温条件で調べた。センサーカメラの検知率は,対象動物と背景温度の差が6℃以下になると低下しはじめた。背景温度としての地温が高くなる夏季の昼間には,野外でこのような状況が生じる可能性がある。動物の体表温度は顔面部分では高い値を示したが,胴体部分では毛皮や羽毛の断熱効果によって背景温度と変わらぬ低い値を示すことも多かった。そのため,撮影範囲に胴体部分しか写らないような状況では,夏季以外の季節にも動物を検知できない場合があると予想される。
著者
川嶋 舟 颯田 葉子
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.211-213, 2009-12-15

日本在来馬8馬種(北海道和種馬,木曽馬,野間馬,対州馬,御崎馬,トカラ馬,宮古馬,与那国馬)のミトコンドリアDNAコントロール領域の多型解析を行なった。その結果,8馬種で14ハプロタイプが認められた。系統樹解析の結果,14ハプロタイプ間に明確な遺伝的差異は認められず,日本在来馬の単一起源説を支持するものであった。各馬種のハプロタイプ構成を比較した結果,遺伝的多様性が維持されている馬種や失いつつある馬種の存在が明らかとなった。また,8馬種は互いに明確に異なるハプロタイプ構成を保有することが明らかとなった。これは,各飼養地域内で長期間維持されてきたため,各馬種で固有のハプロタイプ構成を持つに至ったと考えられた。
著者
安藤 元一 上遠 岳彦 川嶋 舟 Motokazu Ando Kamito Takehiko Kawashima Shu
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.275-286, 2013-03

学生が大学入学前にどのような野生動物関連の知識と体験を有しているか,東京農大生を対象に2002年と2012年にアンケート調査した。野外で見たことのある動物は2002年には鳥類>哺乳類>魚類>爬虫類>両生類の順であったが,2012年には爬虫類,両生類,魚類が大きく減少した。後者は水辺などに行かねば見られない動物であることから,この10年間に若年層の自然に触れる機会が減少していると思われた。野生動物に関する知識や意識における10年間の変化は少なかった。野生動物の目撃場所では,自宅周辺や里山が多く,旅行中の目撃頻度は減少傾向にあった。学生がイメージできる野生動物関連職業の数は少なく,動物園や研究職など一部職種に集中していた。好きな日本産動物の上位は陸生の中・大型哺乳類で占められ,食虫目や翼手目への関心は極めて低かった。好きな世界の動物では動物園で見ることのできるライオン,パンダ,ゾウ,コアラ,トラなどの大型獣が上位であった。野生動物に関する情報源としては特定のテレビ番組が大きな役割を果たしており,本では動物図鑑がよく利用されていた。動物系学科で学ぶ学生(東京農業大学)と非動物系の学生(国際基督教大学)を比較すると,野生動物教育の経験を除いて,アンケート結果は類似しており,入学前における野生動物経験の多寡は大学選択に影響していなかった。動物系の異なる研究室(野生動物学と動物介在療法)に所属する学生の野生動物経験を比較したところ,回答傾向は概ね類似したが,後者では鳥類や獣害に対する関心が若干低かった。
著者
寺本 明子
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.5-12, 2008-06-15

キャサリン・マンスフィールド(Katherine MANSFIELD 1888-1923)は,20世紀の短編小説の基礎を築いた作家である。彼女の作品にはドラマティックなロマンスも大事件も無く,有るのはありふれた日常生活と,そこに見られる登場人物達の繊細な感情である。喜びと哀しみ,憧れと幻滅,期待と落胆,好みと嫌悪,不安と安堵,情熱と諦めなど総ての感情が彼女の小説に織り込まれ,彼女は人間の性質だけでなく,日常生活に秘められた真実への深い洞察力をも発揮する。若くしてマンスフィールドは小説家になる夢を抱き,その為には,何でも知ろうとする好奇心を持ち,幸せな女性の人生経験を積むことが大切だと考えた。しかし不幸なことに,その人生は向こう見ずな結婚,続いて流産,離婚,数々の病気へと進んで行った。一方で,愛する弟の死によって,彼女は20才で見捨てた祖国ニュージーランドについて書くことが使命だと気づいた。軽率な生活のせいで患った病気に苦しみ,彼女自身の死を身近に感じることが,「生きる」ということについて書くきっかけとなった。「園遊会」('The Garden Party')では,ローラが楽しい園遊会の正にその日に,貧しい荷馬車屋の死に出会い,死の荘厳さを知る。「蝿」('The Fly')では,ボスが,インク瓶に落ちた蝿を助けるのだが,その蝿に数滴のインクを垂らして死なせてしまう。彼は蝿に,6年前に戦死した最愛の息子の姿をだぶらせる。このように「死」に関する話題を取り上げながら,彼女はまた,日常生活の中に「生」を発見し,その発見を感覚的に捉え,小説に描く。彼女にとって人生は,何か永遠なるものにつながる喜びの瞬間で成り立っているのだ。この論文では,上記の2つの作品を精読し,マンスフィールドの「生」に対する見方を研究する。
著者
石井 康太 和田 健太 高張 創太 横濱 道成 Kouta Ishii Wada Kenta Takahari Souta Yokohama Michinari
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.39-44,

北海道の然別湖に生息するミヤベイワナはオショロコマの亜種とみなされている。そのミヤベイワナとオショロコマの分化レベルを明確にするために,ミヤベイワナ,然別湖に近い十勝川水系のオショロコマ集団およびその他の河川のオショロコマ集団の3集団に分けて,タンパク質多型およびアイソザイム変異を用いて遺伝的差異および遺伝的分化を検索した。検索した11種類の遺伝子座のうち,然別湖集団(ミヤベイワナ)にHb-II遺伝子座位およびMDH遺伝子座位においてそれぞれSバンドおよびa′バンドが検出された。これらはオショロコマには検出されない新たなる変異であった。したがって,ミヤベイワナとオショロコマとの間を明確に区別できる遺伝子座位が新たに2座位明らかとなった。また,11種類の遺伝子座の対立遺伝子頻度から集団間の遺伝距離を求め系統樹を作成した結果,十勝川水系の河川の集団(オショロコマ)とその他の地域の河川の集団(オショロコマ)がD=0.017ではじめに結びつき,次にこれらの2集団と然別湖集団がD=0.161で結びついた。したがって,ミヤベイワナはオショロコマと亜種として明確に位置づけられた。It is generally considered that Salvelinus malma miyabei which inhabits Sikaribetsu Lake in Hokkaido is a subspecies of S. m. malma. To clarify the differentiation level between Salvelinus m. miyabei and S. m. malma, we investigated genetic differences and genetic differentiation using protein polymorphism and isozyme mutation among 3 groups (S. m. miyabei population, S. m. malma of the Tokachi River water system population which is close to Shikaribetsu Lake and S. m. malma of other region populations). Of 11 loci examined, the S band and a' band were detected in the Hb-II locus and MDH locus respectively for the Shikaribetsu Lake population, these bands are new varieties that were not previously detected in S. m. malma. Therefore, two newly identified loci that could distinguish S. m. miyabei and S. m. malma clearly are reported. As a result of constructing a dendrogram using genetic distances (D) calculated from the allele frequency of 11 kind loci, the Tokachi River water system population (S. m. malma) and the other region populations (S. m. malma) were connected first in D=0.017, secondly these 2 populations and Shikaribetsu Lake population were connected in D=0.161. Therefore, S. m. miyabei was clearly classified as a subspecies of S. m. malma.
著者
キム ヒョンジン ハン ソンヨン 佐々木 浩 安藤 元一 Kim Hyeonjin Sungyong Han Hiroshi Sasaki Motokazu Ando 東京農業大学大学院農学研究科畜産学専攻 Korean Otter Research Center 筑紫女学園大学短期大学部幼児教育科 東京農業大学農学部バイオセラピー学科 Department of Animal Science Graduate School of Agriculture Tokyo University of Agriculture Korean Otter Research Center Department of Early Childhood Education Chikushi Jogakuen University Junior College Department of Human and Animal-Plant Relationships Faculty of Agriculture Tokyo University of Agriculture
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.29-38,

ユーラシアカワウソLutra lutraが経済成長に伴う環境変化からどのような影響を受けるのか調べることを目的に,工業集積の進む韓国慶尚南道の海岸における本種の生息痕を1982年,1991-94年,2002年および2009年にわたってモニタリングした。慶尚南道馬山地域における糞密度は,1990年代には減少傾向を示したが,2000年代後半には回復傾向に転じた。回復傾向は釜山市などでも見られた。本種が安定的に生息する海域のCODは約4mg/L以下のレベルであった。糞が多く見られたのは,岬の湾口にある磯海岸,海岸近くの小島,河川の人工湖などであり,これらは餌資源の多いことや,隠れ場所として適していることが共通していた。本種は人工護岸のわずかな隙間や,沖合の水産養殖イカダの上をサインポストとして利用しており,人工環境への適応力も備えていた。調査期間中に調査地の陸域における各種経済指標は高い伸びを示したが,湾奥部におけるカワウソが生息しない地域が若干広がったことを除くと,陸域における経済発展や開発は本種の生息に直接的な影響は与えないことがわかった。Distribution of otter spraints along sea coasts at Masan area of Gyeongsangnam-do, Korea was monitored for 27 years from 1982, 1991-94, 2002 to 2009. Densities of spraints once decreased in the 1990's. In the late 2000's, however, this turned to a tendency to increase, although recovery was insufficient. Similar recovery was also identified in Busan. Spraints were not found at areas that were far from the closed-off section of the bay by 0-9km. The otters were able to inhabit up to the vicinity of industrialized area. At coasts where otter spraints were regularly found, COD level was around 4mg/L. Spraints were often found at rocky coasts along capes, heads of bays, small islets and reservoirs, indicating that prey fish was abundant in those areas. At coasts with steep artificial walls, otters managed to find landing places by locating narrow gaps and harbors. Otherwise, they used coastal fishpens as signposts, indicating their adaptability to artificial environments. Economic indicators in the land area of the investigation place heightened considerably during the monitoring period. The above findings indicate that terrestrial economic growth does not necessarily lead to the decrease of the otter population.
著者
川嶋 舟 上田 毅 物江 貞雄 内山 秀彦 Schu Kawashima Ueda Tsuyoshi Monoe Sadao Uchiyama Hidehiko
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.1-5, 2013-06

平成23(2011)年3月に発生した東日本大震災は,東北地方太平洋岸に大きな被害をもたらした。被災地の一つである福島県浜通り地方は,国指定重要無形文化財にも指定されている相馬野馬追が行われることから,多くの馬が個別に飼養されている地域でもあった。これらの馬は相馬野馬追に騎馬武者として参加するためだけに飼養されており,コンパニオンホースと呼ぶことのできる位置づけに飼養されている。この地域は,東日本大震災における津波被害を受けただけでなく,東京電力福島第一原子力発電所事故の影響も受け,事故直後から避難指示が出されその後警戒区域に指定された場所も含まれ,この地域で被災した馬に対する保護支援には様々な障害があった。震災から1年が経過し,この間に行われた支援および聞き取り調査の結果をまとめ,被災直後の馬の様子や被災後の馬の動向について明らかにすることができた。また,通常時において,馬名,所有者名,飼養場所等の情報を一元化しておくことが,緊急時におけるコンパニオンホースとして飼養される馬の保護および支援活動を行う際には有効であると考えられる。
著者
安藤 元一 椎野 綾 鳥海 沙織
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.260-268, 2012-03

センサーカメラによる自動撮影調査は,野生動物研究に広く使われている。しかし調査によって設置方法や使用機種が異なるために,調査結果を定量的に比較することが困難である。本研究ではセンサーカメラの機種による性能差を明らかにすることを目的に,フィルムカメラ 1機種(FieldNoteIIa),デジタルカメラ 5機種(FieldNoteDS8000, FieldNoteDS60, GAME SPY D40, Cuddeback Expert およびTSC30) および単体センサー 1機種(TrailMaster550)を対象とし,各機種のシャッター・タイムラグ,動物検知可能距離,種判別可能距離,検知可能画角,および電池寿命を実験的に比較した。タイムラグは 0.6秒から 4.5秒まで機種に大きな差があった。大型の動物を検知できる距離は 7m から 27 m までの差があった。しかし検知距離が長い機種ではフラッシュ光はその距離まで届かなかった。小動物を近距離で撮影した場合,デジタルカメラはすべて被写体が白飛びして種判別が困難であったが,フィルムカメラでは 20cm まで近接しても判別できた。 センサーの水平検知可能画角も機種によって10~150°と大きな差があり,タイムラグが長いカメラほど検知画角が狭くなる傾向があった。電池寿命はいずれの機種も常温で 3週間程度はあり,実用上問題なかった。米国の会社が発売する 3機種は,見通しのきく森林において動きの遅い大型獣の存在を確認するための,ハンティング用調査に適した性能を有していた。国産の 3機種は近距離の中小動物撮影に適し,汎用性の高い機種といえる。一般的な自然環境調査においては,他の調査と比較できる方法を用いることが重要である。しかしカメラ性能の差が大きくてモデルチェンジが頻繁という現状では,定量的な比較のためには機種の統一を目指すよりも,撮影面積を一定にするなどカメラの設置方法^5) を工夫する方が現実的と思われる。Trail camera photography has become a common practice in wildlife field studies. Quantitative comparison of different survey results, however, remains difficult partly because different cameras are used in different studies. This study aims at clarifying performances of film-and digital-sensor cameras under experimental conditions. Seven camera types were tested : a film camera(FieldNoteIIa), five digital cameras (FieldNoteDS8000, FieldNoteDS60, Cuddeback Expert, GAMESPYD40, TSC30)and a separate-type sensor(TrailMaster550). Time lags from sensing to triggering varied from 0.6 sec. of FN IIa to 4.5 of TSC30. Detectable distances were from 7m of FN IIa to 27 m of TSC30. Identifiable distance of TSC30, however, was no more than 12 m due to the lack of speedlight power. Horizontal detectable angles also varied from 10° of Expert to 150° of TrailMaster. When shooting close up photos of small-size animals, images of digital cameras tended to be overexposed and not to allow species identification. This was not the case in the film camera that allowed identifiable close up shot as near as 20 cm. Battery satisfactorily lasted for more than three weeks in all cameras. Cameras distributed by US companies generally had longer detectable distances, narrow detectable angles and longer triggering time that were suitable in detecting big game in woodlands of good visibility. Cameras made in Japan had more compact size, shorter detectable distances and wider detectable angles and broader dynamic ranges. These were desirable performances for use in rural thickets in Japan. For comparing different survey results, it seemed more practical to standardize rules of camera installation rather than unifying camera performances.
著者
ニナ ノコン 藤本 彰三
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.112-120, 2006-03-09

野菜は多くのフィリピン人にとって安価な栄養源であるだけでなく,少数の裕福な人々にとっては,健康的な生活を送るための重要な食物の一つである。この少数の裕福な人々が,フィリピンにおいてニッチマーケットである有機野菜産業を支えている。有機野菜の需要動向を検討するため,我々はマニラにおけるホテルやレストランなどの外食産業と一般消費者の有機野菜需要について,2002〜2003年に質問票及びインタビュー調査を実施した。調査対象はホテル・レストランが11軒,一般消費者が118人,スーパーが7軒,及び有機農産物を販売する4つの市場である。本研究の主な成果は,以下の通りである。(1)主要なホテルやレストランは有機野菜を購入しないが,一般消費者は購入する可能性が高い ; (2)有機農産物市場で売られる75種類の野菜のうち,ニンジンが総量の30%を占めた ; (3)中型サイズのニンジン,普通サイズのトマト,たまねぎ,中型サイズのジャガイモは,価格変動への弾力性が大きい。それは安定供給による価格低下が可能となれば,需要は増加する可能性があることを意味する ; (4)ガン患者やガン予防のために,ニンジンはセロリと一緒にジュースとして消費されることが多いと言われている点を,両者の交差価格弾力性の計測結果から明らかにした。
著者
阿部伸太
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.121-129, 2006-03-09

風致地区制度は1919(大正8)年公布の旧「都市計画法」を根拠法として創設されたもので,地域制緑地としては最も歴史ある制度である。都市化の中で一定の効果をあげてきたが,第二次世界大戦期間の風致行政の中断,および戦後の取締り再開後に高度経済成長期を迎えたことで形骸化した地区も多く存在するようになった。本研究は,創設期における風致地区制度の都市計画上の意義を明らかにし,当初,風致保全育成のシステムを制度としてどのように仕掛けていたのかを明らかにすることを目的とした。研究課題は,第一に風致地区制度の都市計画的意味の把握,第二に風致の保全・維持,活用・育成概念の風致地区制度における内包状況の解明,第三に風致育成をねらいとした風致協会の意義の解明とした。その結果,風致地区制度は,風致保全が目的であるが,これは都市化の進行を受け止めとめることを想定しており,その過程には地域住民による組織を形成することによって風致を育成していく計画体系でもあったこと,つまり,風致地区制度は指定することによってのみ風致の保全を図ろうとする制度ではなく,指定の後,その地区を維持管理していく組織を設立し,これを機能させることによってはじめて,変化する地区の都市化の実状を踏まえた風致の維持を可能にしようとした制度であったことを明らかにした。
著者
丹田 誠之助 須賀 里絵
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.141-152, 2002-12-20

うどんこ病の発生が未記録のアメリカイヌホオズキでうどんこ病の発生が認められた。また,ワサビダイコン,タチアオイ,ヒメコスモス,ハマナスでは国内で同病の発生が知られていないが本研究により発病が観察され,さらに,すでにSphaerotheca属菌のアナモルフが発生するとされているパンジーでは記録と異なるうどんこ病菌を検出した。本研究ではこれらの病原菌の形態的特徴を精査し,2,3の宿主上の菌については寄生性も調べて以下のように同定した。1.ワサビダイコン(Armoracia rusticana,アブラナ科)うどんこ病菌 : Erysiphe cruciferarumの分生子時代 2.タチアオイ(Alcea rosea,アオイ科)菌 : E.orontiiの分生子時代 3.パンジ-(Viola×wittrockiana,スミレ科)菌 : Oidium violae 4.ヒメコスモス(Brachycome iberidifolia,キク科)菌 : Oidium citrulli 5.ハマナス(Rosa rugosa,バラ科)菌 : Oidium leucoconium 6.アメリカイヌホオズキ(Solanum americanum,ナス科)菌 : Oidium sp.
著者
沖津 ミサ子 Misako Okitsu
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.260-267, 2003-03

ボードレールの悪の意識は彼の宗教的哲学的思想の根底を成すものである。クレマン・ボルガルやバンジャマン・フォンダーヌも指摘しているように,ボードレールの信条はニーチェのそれに非常に近いものと思われる。ニーチェは神の死を宣告したが,それより先すでにボードレールは神の不在を表明しキリスト教への反逆を企てた。彼はキリスト教による救済を拒否し,自分の罪は自分自身によって贖おうとした。すなわち彼は自分の内に存在する悪を認識し,凝視し,そこから生じる苦悩を深く苦悩することによって罪を贖おうとした。≪苦悩こそ唯一の高貴≫と唄って,苦悩こそが自分の魂を浄化しうる唯一の手段であると信じた。その結果ボードレールは過剰な程に悪の意識にとりつかれてしまう。そのことについてボードレール自身「苦悩の錬金術」の中で≪僕は黄金を鉄に,天国を地獄に変えてしまう≫と嘆いている。こうしたボードレールの思想は当然,深い内省心に支えられねばならない。そのことについてボードレールは「救いがたいもの」(二)の中で≪心が自分自身を映す鏡となる 暗くしかも透明な差し向い 青白い星かげのゆらめく 明るくて暗い「真理」の井戸! 皮肉な地獄の燈台 悪魔的恩寵の松明 唯一の慰めであり栄光である-「悪」の中に居るという意識は!≫と唄っている。ヨーロッパの伝統的宗教であるキリスト教に反逆を企てたボードレールは 彼独自の教義を唱えた。そして,その思想の根底にあるのが「「悪」の中に居るという意識」であり「苦悩こそ唯一の高貴」であり,「苦悩の錬金術」である。こうしたボードレールの思想は良心の呵責を歌った普遍的真理となった。