著者
寺田 僚介 大町 かおり
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H4P2361, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】軸足の定義は文献によって異なり、未だ明確化されていない。本研究の目的は、軸足の定義を再考し、通常歩行時の歩幅をもとに運動学的に分析し、軸足と非軸足の機能の違いを検討することである。【方法】対象は下肢および腰部に整形外科的既往のない健常男性11名であり、平均年齢21.3±1.1歳、平均身長173.9±5.1 cm、平均体重64.2±7.4 kg、平均ASIS間距離24.0±2.2cm、平均SMD86.9±4.3cmであった。軸足の設定は以下の3条件とし、その対側を非軸足とした。条件1:通常の立位時に荷重量の多い側(直立位条件)。条件2:「安めの姿勢」での荷重量の多い側(安楽立位条件)。条件3:ボールを蹴る側の脚の対側(ボール条件)。測定課題は、室内にて裸足での自由歩行とした。歩行は2回行い、2回目の測定範囲中央のデータを用いた。動作計測には三次元動作解析装置(VICON460、OxfordMetrics)を使用し、反射マーカーを左右の上前腸骨棘、上後腸骨棘、大腿外側、大腿骨外側上顆、下腿外側、外果、踵骨後面、第2中足骨頭に両面テープで貼付した。Initial Contact (以下IC)時における両側の関節角度(Pelvis、Hip、Knee、Ankle)と歩幅を計測した。歩幅は振り出し側のHC時の踵骨後面のマーカーの座標と対側の踵骨後面のマーカーを基に算出した。統計処理は、3条件の軸足と非軸足に対し、歩幅、関節角度の比較を対応のあるt検定にて、軸足あるいは非軸足の歩幅に関するそれぞれのすべての測定値に対し関係性をピアソンの相関にて検討した。有意水準を5%未満とし、10%未満を傾向ありとした。【説明と同意】対象者に事前に研究の目的と方法の説明を行い、書面にて同意を得た上で上記の計測を行った。【結果】軸足に関する3条件の歩幅は、直立位条件(非軸足:66.8±11.6cm、軸足:64.5±7.0 cm)、安楽立位条件(非軸足:67.4 ±9.9cm、軸足:63.9 ±9.1cm)、ボール条件 (非軸足:65.8 ±11.5 cm、軸足:65.6 ±7.5 cm)であった。安楽立位条件で軸足を決定した際の歩行時の関節角度は、振り出した側の骨盤前方回旋角度(非軸足が振り出した際の非軸足の骨盤前方回旋角度:6.4±3.1度、軸足(同様):5.8±3.3度)、同股関節屈曲角度(非軸足:30.5±3.8度、軸足:29.2±4.2度)、同膝関節屈曲角度(非軸足:10.1±3.8度、軸足:8.9±5.8度)、 同足関節背屈角度(非軸足:5.8±3.6度、軸足:4.9±3.0度)、残された側の骨盤前方回旋角度(非軸足に対する対側の骨盤前方回旋角度:4.6±2.9度、軸足(同様):7.5±2.9度)、同股関節伸展角度(非軸足:10.5±5.9度、軸足:8.9±6.0度)、同膝関節屈曲角度(非軸足:13.9±3.8度、軸足:15.4±5.3度)、同足関節背屈角度(非軸足:17.4±3.9度、軸足:19.5±2.5度)であった。 安楽立位時における非軸足側の歩幅は軸足側の歩幅と比較して長い傾向があり、歩行時の残された側の股関節伸展角度においても非軸足側が、伸展角度が大きい傾向が見られた(いずれもp<0.1)。その他2条件の軸足と歩幅、関節角度の間には有意差は認めらなかった。また、安楽立位時における歩幅と残された側の股関節伸展角度において、非軸足、軸足共に正の相関が認められ(非軸足r=0.62、軸足r=0.672、いずれもp<0.05)、非軸足における歩幅と残された側の足関節背屈角度に負の相関が認められた(r=-0.615、p<0.05)。【考察】今回、軸足の定義を3条件設定し、振り出し側のIC時における歩幅と骨盤および下肢の関節角度に着目した。軸足を安楽立位での荷重量の多い側と定義した際に、非軸足の歩幅が長くなる傾向があり、振り出し側が非軸足の場合の歩幅が大きいほど、対側の股関節伸展角度は有意に大きく、同じく対側の足関節背屈角度は有意に小さいという結果となった。本来、健常者の歩幅は左右差がないとされているが、軸足の定義を安静立位時の荷重側とした際に、非軸足の歩幅の方が長くなる傾向があり、それは、残された軸足の股関節が十分に伸展し、足関節を底屈させ足底の支持面が小さくなっても十分に支持できる姿勢制御の機能によるのではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】軸足と非軸足の役割の違いを明確にすることは、スポーツ分野での多用による傷害、あるいは時間経過による変性などの高齢者に生じる障害について、現象を明らかにし、治療に生かすことのできる基礎資料となると考えられる。