著者
山口 剛司 高崎 恭輔 鈴木 俊明
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3O2045, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】足部不安定性に対する運動療法は、閉鎖性運動連鎖でのエクササイズが有用であると考える。なぜなら実際の動作と類似した肢位でのエクササイズは、安定した動作を遂行するための機能的な筋活動を獲得できるからである。我々は第44回本学会において、片脚立位での一側下肢の運動課題時に生じる支持脚足部内のCOP変化と足部周囲筋群、膝屈筋群の筋活動について報告した。その結果、運動課題に伴うCOP移動は一定の傾向を示し、COP移動方向と筋活動には、次のような傾向を認めた。足部周囲筋群では、COP移動方向により腓骨筋と後脛骨筋の筋活動が明確に切り換る場合や同時活動する場合を認め、膝屈筋群ではCOP移動方向により大腿二頭筋と半膜様筋は明確に切り換る場合を認めた。この結果から膝屈筋群は、主に膝関節の回旋運動の制御に機能することが考えられた。しかしながら一般的には膝伸筋群が、膝関節の安定性に関与すると考えられるため、同運動課題における膝伸筋群の機能を把握する必要があると考えられた。そこで今回は、同運動課題でのCOPと足部周囲筋群、膝屈筋群に加え、膝伸筋群の筋電図評価を実施したので報告する。【方法】対象は、整形外科的・神経学的に問題のない男女7名(平均年齢29.7±3.7歳)の支持脚7肢とした。方法は、被験者に重心計のプレート上で片脚立位をとらせ、非支持脚下肢での運動課題を行わせた時の支持脚の筋電図ならびにCOPを記録した。支持脚は、股関節・膝関節を各々30゜屈曲位と規定した。筋電図では、支持脚の腓骨筋、後脛骨筋、半膜様筋、大腿二頭筋、内側広筋、外側広筋の筋活動を記録した。運動課題の開始肢位は、立位の状態から非利き足側(以下、運動側)下肢の足底が接地しないよう前方で空間保持した状態とした。運動課題は、開始肢位より運動側股関節を内転する課題を内側運動、外転する運動を外側運動とした。なお下肢の運動と筋電図記録、COP記録を同期するためにフットスイッチを運動側の母趾と小趾に配置し、内側運動、外側運動の両端に台を設置してスイッチと接触させた。運動課題の施行は開始肢位より内側運動から行い、外側・内側の3回の運動を1施行として、各被検者で3施行測定した。分析方法は、運動課題中のCOP軌跡の時間的変化とそれに伴う導出筋の筋活動パターンを分析した。【説明と同意】各被験者には本研究目的と内容について十分に説明を行い、同意を得た後に測定を実施した。【結果】 運動課題時のCOPは、内側運動課題中は小趾側方向へ移動し、外側運動課題中は母趾側方向へ移動した。一方筋電図では、次のような傾向を認めた。まず足部周囲筋群では、COPの移動方向により腓骨筋と後脛骨筋の筋活動が明確に切り換る場合や、後脛骨筋が持続的に活動する場合が見られた。具体的には、COPの小趾側移動中には後脛骨筋が活動し、母趾側移動中には腓骨筋の活動を認めた。次に膝屈筋群は、COPの小趾側移動中には半膜様筋が活動し、母趾側移動中には大腿二頭筋の活動を認め、COPの移動方向により両筋の明確な切り換りを認めた。膝伸筋群では、外側広筋がCOPの移動方向に関わらず持続的な活動を認め、内側広筋はCOPが母趾側移動中に活動する傾向を認めた。【考察】本運動課題中の足部周囲筋群では、先行研究と同様に腓骨筋と後脛骨筋の活動が切り換ることによりCOPの移動を円滑にすると考えられる。この中でも後脛骨筋が持続的な活動を認める場合は、課題中にCOPの移動が不安定な場合に生じる傾向が見られた。この時後脛骨筋は、足部内側の剛性を形成し足部安定化作用を担うため、運動課題時の足部不安定性を補償する目的で持続的に活動したと考えられる。次に膝伸筋群では内側広筋がCOP母趾側移動中に活動を認めた。COP母趾側移動中は、下肢では股関節屈曲位での軽度内転、膝関節屈曲位での外反外旋運動が観察される。このアラインメントでは膝外反外旋運動により、膝蓋骨は外方へ移動する力が生じる。この時内側広筋は、外側広筋との同時活動により膝蓋骨の外方移動を制動すると考えられる。内側広筋は、この膝蓋骨の外方移動を制動し、膝蓋骨を介して間接的に膝外反外旋運動を制動するのに最も効率の良い筋走行であると考える。そのためCOP母趾側移動中には、内側広筋が活動したと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 足部不安定性に対する運動療法は、閉鎖性運動連鎖でのエクササイズが有用であると考える。本運動課題では、安定した姿勢を保持し、支持脚のCOPが円滑に移動するには、足部周囲筋群に加え膝周囲筋群の筋活動により下肢アラインメントを制御することが必要となる。また本運動課題はサイドステップやクロスオーバーステップ動作の肢位と類似することから、これら動作練習の前段階のエクササイズとして有用であると考える。
著者
夏目 祥子 根地嶋 誠 関 直哉 杉谷 竜司 石井 裕也 大城 昌平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H4P2353, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】 腰痛症の原因の1つに胸椎の可動域低下が指摘されている。特に体幹伸展時には,胸椎の伸展制限を可動性の大きい下位腰椎で代償するため,腰椎へのストレスが増大し疼痛を発生させると推測される。このような症例に対して,従来行われている腹臥位での体幹伸展運動では,腰椎で運動してしまい胸椎の可動域を改善することは困難だと考えられる。よって,胸椎の可動域改善を目的とした運動療法の効果を明らかにすることは重要である。本研究の目的は,胸椎の伸展運動を目的とした下部体幹固定での体幹伸展運動が伸展可動域に与える影響を,腹臥位での体幹伸展運動と比較し検証することである。【方法】 対象は,現在腰痛を有さない健常男子学生20名(平均年齢20.4±0.8歳,平均身長172.7±7.1cm,平均体重61.9±7.7kg)であった。無作為に,下部体幹の固定による体幹伸展運動をおこなう群(以下,胸椎伸展群)と,腹臥位での体幹伸展運動をおこなう群(以下,背筋群)に10名ずつ分けた。胸椎伸展群には,腰痛治療器ATM2(BackProject社)を用い,3本のベルトで骨盤および下部胸郭を固定し,運動の抵抗となるベルトを腋窩に通して,体幹の伸展運動をおこなった。背筋群では,日本整形外科学会が推奨する腹臥位での背筋体操をおこなった。それぞれの運動は,3秒間の伸展等尺性収縮を10回おこなった。評価方法は,矢状面における伸展可動域とした。角度の算出のためマーカーをC7,Th7,Th12,L1,L3,L5の棘突起,右腸骨稜最高位,右大転子(最大膨隆部),右大腿骨外側上顆に貼付した。介入の前後で安静時立位と最大伸展を側方からデジタルカメラで撮影した。マーカーを指標に,胸椎角(C7-Th7-Th12),腰椎角(L1-L3-L5),股関節角(右腸骨稜最高位-右大転子-右大腿骨外側上顆),体幹角(C7-右大転子-右大腿骨外側上顆)を算出した。次に各部位において安静立位の値から最大伸展位の値を引くことで,可動域を算出した。統計的処理は,各伸展運動間の差の比較に対応のないt検定を用い,有意水準は危険率5%未満とした。【説明と同意】 実験の対象者には事前に本研究の目的と方法を文章及び口頭で十分に説明し,同意書に署名した者を対象とした。【結果】 胸椎角は胸椎伸展群3.21±3.4°,背筋群-0.04±3.0°であり,有意に胸椎伸展群が大きかった(p=0.036)。腰椎角は胸椎伸展群-0.97±7.7°,背筋群-1.78±5.6°,股関節角は胸椎伸展群1.46±3.0°,背筋群-0.62±3.1°であり,いずれも差は認められなかった。体幹角は胸椎伸展群4.6±5.4°,背筋群-0.42±4.2であり,有意に胸椎伸展群が大きかった(p=0.032)。【考察】 本研究の結果,胸椎伸展群では胸椎と体幹角が運動後に有意に増大した。この理由として,胸椎伸展運動ではベルトで下部体幹を固定したことで上部胸椎の動きを誘発できたことが要因であると考えられる。 胸椎の解剖学的特徴として胸郭の存在があり,頸椎や腰椎と比較して可動域が少なくなっている。胸郭は体幹の動きを円滑にするための運動器であり,胸郭の可動性を保つことは重要である。体幹伸展時には,肋骨の後方回旋が生じ胸郭は挙上する。また,胸郭の挙上に伴い,上位肋骨の運動軸は前額軸に近く挙上に伴い前方に開くが,下位肋骨の運動軸は矢状面に近いため挙上に伴い側方に開き,上位肋骨と下位肋骨で異なる動きをする。つまり,体幹伸展時には胸椎の動きに連動し,下位肋骨は挙上すると共に側方に開く。以上の要因から,胸椎の運動は胸郭のアライメント・可動性の影響を受けやすいと考えられる。よって,本研究で用いたATM2では下部体幹を固定したことで胸郭を扁平させ,胸椎の伸展運動を促すことができたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 下部体幹を固定した胸椎伸展運動は胸椎の可動域を拡大できることが示唆された。胸椎の伸展制限は腰痛の原因の1つであり,代償的な下位腰椎の過可動性は腰部組織の変性を助長させ,疼痛が生じる。このような症例に対し,理学療法において腰椎部への過剰なストレスを減少させることが機能改善をもたらすと考えられている。よって,胸椎の可動域が増大することで腰椎にかかる負担を軽減できると推察できる。したがって,胸椎伸展運動は胸椎の可動域制限があり,体幹伸展時に疼痛が生じる腰痛症患者の治療に有効である可能性が考えられる。
著者
古賀 麻奈美 長谷 麻由 芳野 千尋 籾井 佑都 松本 彬 田鍋 拓也 有吉 雄司 山本 浩由 甲斐 悟 高橋 精一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H4P3260, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】大脳皮質でストレスと認知された刺激は自律神経系,内分泌系,免疫系を介して全身に伝達され,身体的,心理的な反応を引き起こし,精神疾患以外にも生活習慣病など様々な疾患の引き金になると考えられている.そこでリラクセーションとして用いられている深呼吸のストレス緩和効果を明らかにする.【方法】健常成人女性15名(平均21.8±0.7歳)を対象とした. ストレス後の深呼吸の効果をみるために,深呼吸介入と非介入の条件で測定日を2日以上離してランダムに測定した.対象者には椅子坐位での5分間の安静後にストレス負荷として内田クレペリン検査を15分間実施し,その後,深呼吸群は5分間の深呼吸行い,コントロール群は5分間の安静を行った.深呼吸はストップウォッチを見せながら呼息6秒・吸息4秒の条件で実施した.深呼吸非介入時は安静を保った.安静開始4分後,ストレス負荷12分後,深呼吸開始及び深呼吸非介入時には安静4分後に,唾液アミラーゼを測定(CM-2.1,ニプロ株式会社)した.飲食物の影響を避けるため,食後直ぐには行わなかった.測定は,室温23~26°C,湿度30~50%の環境で実施した.統計学的分析は,二元配置分散分析と多重比較検定を行った.有意水準は5%未満とした.【説明と同意】対象者には本研究の目的および方法を説明し,同意を得たうえで測定を実施した.また,被験者はいつでも研究への参加の同意を撤回する権利を有し,それによる不利益は決して生じないことを説明した.【結果】深呼吸介入時の唾液アミラーゼの値は,それぞれ安静時 45±21.3 KU/L,ストレス負荷時:83.2±33.3 KU/L,深呼吸時:40.7±16.3KU/L であった.深呼吸非介入時の唾液アミラーゼの値は,それぞれ安静時51.7±17.9 KU/L,ストレス負荷時:86.2±23.0 KU/L,深呼吸非介入時:69.8±33.2KU/Lであった.ストレス負荷時と深呼吸介入時には統計学的有意差(p<0.05)が認められたが,深呼吸非介入時には有意差が認められなかった.【考察】本研究の結果,唾液アミラーゼの値からは深呼吸がストレスを緩和する効果があることが示された.ストレス負荷時では,大脳皮質でストレスと認識された刺激により大脳辺縁系が不安,怒りなどの情動を引き起こし,視床下部へと興奮が伝わった結果,内分泌系や自律神経系に作用し交感神経を刺激したことが考えられる.その結果,交感神経系の指標とされるノルエピネフリンの増幅器として働く唾液アミラーゼの分泌が亢進されたことが考えられる.生理学的に,深呼吸をすると迷走神経が興奮して心拍数減少が認められており,副交感神経活動が優位となるといわれている.また,深呼吸時に吸息時間より呼息時間を長くすることで,副交感神経をより高めるという報告もみられた.このことから,深呼吸を行うことで副腎髄質のノルエピネフリン分泌と交感神経の興奮が抑制され,唾液アミラーゼの値は減少し,副交感神経が有意に働いたことでストレスを緩和したと考えられる.【理学療法学研究としての意義】理学療法領域での深呼吸の有用性に関しては,肺気腫や気管支喘息などの呼吸器疾患患者に対する症状改善が報告されている.また,平成19年の労働者健康状況調査では仕事上のストレスを感じている人が58%,すなわち2人に1人がストレスを感じていると報告されている.臨床で接する対象者や医療従事者も日常生活で様々なストレスを抱えていると考えられ,ストレスに対するコントロール法が必要とされている.今回の研究においては,深呼吸を理学療法に取り入れることで治療場面のみならず,予防医療の一環として有用である可能性が示された.
著者
角屋 恵 川合 祐貴 井上 登太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D3O3087, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】嚥下障害は咽頭期の機能障害だけでなく、呼吸機能低下や免疫力低下など様々な要因により誘発される。慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)においても全体の約9%に嚥下障害を認めるという報告がある。今回COPD症例を重症度別に分類し、呼吸機能と嚥下機能との関係について検討を行ったので報告する。【方法】COPD症例119例。COPD症例を重症度別にstage1群(FEV1≧80%)58名、stage2群(50%≧FEV1>80%)41名、stage3群(30%≧FEV1>50%)14名、stage4群(30%>FEV1)6名に分類した。なお平均FEV1はstage1群にて104.32±16.79%、stage2群にて66.15±7.60%、stage3群にて41.30±5.83%、stage4群にて24.70±4.84%であった。年齢、BMI、改定水飲みテスト(以下MWST)、反復唾液嚥下テスト(以下RSST)、頚部胸部聴診法(以下CCA)の5項目に関して、各stage間で比較検討を行うために、統計的手法としてスチューデントのt検定を使用し、p<0.05を有意水準とした。【説明と同意】本研究の内容と意義を説明し、結果の利用に同意を頂いたCOPD症例119例を対象とした。【結果】年齢はstage1群70.76±13.26歳、stage2群72.49±10.10歳、stage3群71.14±14.05歳、stage4群68.33±10.71歳であった。年齢は各stageともに有意差を認めなかった。BMIはstage1群22.83±2.98、stage2群21.59±3.82、stage3群19.81±2.87、stage4群18.57±3.37であった。BMIはstage1-2・2-3間において有意差を認めたが、stage3-4間には認めなかった。MWSTはstage1群4.82±0.53、stage2群4.80±0.51、stage3群4.71±0.61、stage4群4.33±1.03であり、各stage間は有意差を認めた。RSSTはstage1群4.71±0.70回、stage2群4.65±0.76回、stage3群4.71±0.73回、stage4群4.17±0.75回であり、各stage間に有意差を認めた。CCAはstage1群で20.7%に、stage2群で24.4%に、stage3群で35.7%に、stage4群に50%に気道侵入を認め、stage1-2・2-3間において有意差を認めたが、stage3-4間には有意差を認めなかった。【考察】結果より、呼吸機能低下の進行に伴い嚥下機能も低下していることがわかった。COPDでは頻呼吸や呼吸困難感により吸気時に嚥下が行われたり、咽頭筋の機能・協調障害などによって嚥下障害が生じると言われている。FEV1≧80%の軽症であってもCCAでは全体の2割に気道進入を認めていることから、高齢COPD症例の場合は呼吸機能低下が軽度でも嚥下障害の可能性があることを配慮しなければならないと思われる。COPDは全身性疾患であり、呼吸機能だけでなく嚥下機能も低下し、誤嚥性肺炎の発症のリスクが高くなる。さらに呼吸不全・嚥下障害が悪化することで、栄養摂取量低下や易感染性を招くという悪循環に陥りやすいため、定期的に呼吸状態の評価を行うだけでなく、同時に嚥下機能の評価も行い、適切なケアを行う必要があると思われる。 【理学療法学研究としての意義】COPD症例に対する呼吸リハビリテーションに理学療法士として関わっていく際に、息切れや歩行能力等の評価も必須だが、嚥下障害が出現していないかを考慮し、評価・治療プログラムの立案を行っていく必要があると思われる。
著者
長谷川 由理 石井 慎一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3O1023, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】我々は第44回日本理学療法学術大会において、スクリューホームムーブメント(以下SHM)と大腿骨前捻角度(以下FNA)の関係性について報告し、FNAの大きさにより大腿骨の運動方向、回旋量に違いが生じることを報告した。その中でFNAが大きいほど大腿骨の内旋、膝関節の外旋が大きくなるが、これらの回旋角度の増加が下腿や足部に及ぼす影響については、不明な点である。そこで本研究では、荷重位における膝関節伸展運動時の脛骨、足部の運動を調べ、FNAとの関係性を検討することを目的とした。【方法】対象は、下肢に既往のない成人男性4名、女性10名の計14名(平均年齢23.3±6.0歳)とした。測定課題は、自然立位から膝関節を約90°屈曲し、再び自然立位へと戻るハーフスクワットとした。計測には、三次元動作解析装置VICON612(VICON-PEAK社製)を使用した。赤外線反射標点を体表面上の所定の位置に計16個貼付し、課題動作中の標点位置を計測した。関節角度の算出はオイラー角を用いて、膝関節屈伸角度、大腿骨回旋角度、脛骨回旋角度、大腿骨と脛骨の相対回旋角度(膝関節回旋角度)、膝関節内外反角度を求め、さらに横足根関節回内外角度、前額面上での脛骨傾斜角度(脛骨傾斜角度)を算出した。角度の算出には、歩行データ演算用ソフトVICON Body Builder(VICON-PEAK社製)を使用した。またFNAの計測は、CTやレントゲン所見と相関が強いとされるcraing testにて行った。分析は、各被験者の屈曲60°から最終伸展位における大腿骨回旋角度、脛骨回旋角度、膝関節回旋角度、膝関節内外反角度、横足根関節回内外角度、脛骨傾斜角度を調べ、FNAと各角度の相関の程度をPearsonの相関係数を用いて検討した。統計学的有意水準は、危険率p<0.05とした。【説明と同意】本研究を行うにあたって、対象とした14名の被験者には、本研究の目的と方法について説明し、すべての被験者において同意を得られた。また年齢や計測結果などの個人情報は、本研究以外では使用しない旨を説明し、情報の管理に配慮した。【結果】膝関節伸展時、すべての被験者において膝関節は外旋し、SHMが生じた。FNAと正の相関が認められたのは、大腿骨回旋角度(r=0.62 p<0.05)と膝関節回旋角度(r=0.53 p<0.05)であり、脛骨回旋角度は相関が認められず(r=-0.18)、前回の報告と同様の結果を示した。またFNAと膝関節内外反角度、脛骨傾斜角度、横足根関節回内外角度との相関は認められなかった。しかし、膝関節内外反角度は、大腿骨回旋角度(r=0.79 p<0.01)、膝関節回旋角度(r=0.72 p<0.01)と正の相関を示し、脛骨傾斜角度は、大腿骨回旋角度(r=0.79 p<0.01)、膝関節回旋角度(r=0.60 p<0.05)、横足根関節回内外角度(r=0.56 p<0.05)と正の相関を示した。なお、膝関節伸展運動中、大腿骨は内旋、脛骨は外旋、外側傾斜、横足根関節では回外が生じ、膝関節は内反運動が生じていた。【考察】FNAは、立位姿勢における股関節アライメントを変化させる要因であり、FNAが大きいと、大腿骨頭中心が寛骨臼中心に対し前方に位置するため、大腿骨を内旋させて関節面の適合性を高めているものと考察する。また本研究結果から、大腿骨の内旋角度が大きいと、膝関節の内反、脛骨の外側傾斜が大きくなる傾向が確認された。従来の報告では、FNAが大きいと膝関節は外反外旋し、Knee-inする傾向にあると言われているが、脛骨の外側傾斜と膝内反が生じ、FNAが大きくても荷重位での膝関節伸展運動の最終局面では膝関節は内反することが分かった。それは、過剰な大腿骨の内旋運動が強要されると、膝関節の後内側関節包や内側側副靭帯、ACL、膝窩筋などの張力が増加し、大腿骨内旋が制動されるため、大腿骨と脛骨が連結した状態で、回転軸が膝から足部に移動したためであると考えられた。そのため、FNAが大きい被験者では、大腿骨の内旋運動に追従して、脛骨の外側傾斜、膝関節の内反が引き起こされたと考えられた。【理学療法学研究としての意義】FNAなどの形態は先天的なものであるが、長年の月日を経て二次的に変形性股関節症や膝関節症を引き起こす要因となりうるものである。今回得られた結果からも、FNAが大きいと膝関節内反、脛骨の外側傾斜が大きくなるため、内反変形を助長しやすい運動パターンであることが示唆された。二次的な機能障害の発生を予防していくためにも、閉鎖性運動連鎖を解明していくことが重要であると考える。
著者
古居 俊一 白岩 加代子 川勝 修就 長谷 いずみ 金井 秀作 田中 聡 大塚 彰
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H4P3264, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】踏み台昇降運動は、臨床場面において、糖尿病や呼吸器・循環器不全の患者の運動療法の1つとして用いられている。また、臨床場面以外でも高齢者に対して転倒予防や健康増進を目的として用いられている。しかし、踏み台昇降に関しての、台の高さや昇降速度の設定については、疾患や対象者によって異なり、それぞれに対応して運動強度を決定している。わが国における運動強度は、一般にAmerican College of Sports Medicine(ACSM)の基準を参照していることが多い。しかしながら、ACSMで示されている運動強度は昇降用計算式によって求められた概算値である。本研究では、踏み台昇降運動について、日本人健常者を対象に実測値による運動強度とACSMで示されている運動強度が一致するか検討した。【方法】対象は心肺機能及び身体機能に特に問題の無い大学生14名(男性10名:平均年齢21.4±0.5歳、平均身長169.0±2.5cm、平均体重68.6±4.9kg、女性4名:平均年齢21.0±0.8歳、平均身長158.1±2.8cm、平均体重48.5±.1.7kg)である。運動課題は、15cm、25cmの各高さの踏み台を120歩/分の速さで昇降運動を行った。踏み台昇降運動を行う際には、呼吸代謝測定装置VO2000(S&ME社製)を用いて酸素摂取量の測定を行った。踏み台昇降運動は9分間行い、測定開始後2分と測定終了前2分間を除いた5分間を踏み台昇降運動の代謝量として解析に用いた。また、安静時酸素摂取量については、運動負荷を与えず、椅子座位姿勢にて3分間測定した。測定開始後30秒と測定終了前30秒を除いた2分間を安静時代謝量として解析に用いた。解析方法は、VO2000より得られた記録を呼吸代謝解析ソフトM-graphを用いて解析した。各高さにおける運動強度について、安静時酸素摂取量を基に算出した実測値運動強度と1MET=3.5ml/kg/minを基に推測値運動強度を算出した。ACSMが提示する昇降用計算式から求められた運動強度と比較するとともに、実測値運動強度と推測値運動強度においては、対応のあるt検定を用いて統計学的処理を行った。測定値は平均値±標準偏差で示し、危険率5%未満を有意とした。【説明と同意】予め、被験者には本研究の目的および内容について説明を行い、文書にて同意が得られた者を対象とした。【結果】安静時酸素摂取量は、4.1±0.8ml/kg/minであった。踏み台昇降運動の運動強度は、高さ15cmでは、ACSMが提示する運動強度は5.8METsであるのに対し、実測値運動強度は4.7±1.1METs、推測値運動強度は5.3±0.5METsであった。高さ25cmでは、ACSMが提示する運動強度は7.9METsであるのに対し、実測値運動強度は6.4±1.4METs、推測値運動強度は7.1±0.5METsであった。実測値運動強度と推測値運動強度には統計学的な有意差は認められなかったものの、実測値運動強度は推測値運動強度やACSMの概算値よりも低い傾向を示した。【考察】日本人健常者において、実測値運動強度は、推測値運動強度とACSMで示す運動強度より強度が低い結果となった。この結果から、ACSMを指標として運動処方を行った場合、あるいは1MET =3.5 ml/kg/minで運動強度を求めた場合は、実際には目標とする運動強度に達していない可能性が示唆される。高齢者を対象としたエネルギー消費量の計測を行った研究では、1MET=3.5ml/kg/minで計算した強度と実測による強度で比較した場合、実測による強度の方が低い結果を示し、高齢者の運動処方には十分注意が必要であると述べられている。また、女性を対象とし、肥満者と非肥満者の歩行時のエネルギー消費を比較した研究では、肥満者のほうが歩行速度に関わらず、非肥満者よりも有意にエネルギー消費が大きいとの報告もみられる。酸素摂取量に関しては、体格や心理的状態なども影響することから、1MET=3.5ml/kg/minやACSMで示す概算値を日本人健常者にそのまま適応するのは適切ではないと考えられた。したがって、日本人を対象とした運動強度の概算値を作成する必要があると思われる。【理学療法学研究としての意義】ACSMで提示している運動強度と実測値から求めた運動強度に違いが認められたことは、今後運動処方する際の注意事項として有意義な基礎情報になると考えられる。
著者
高木 祥 金岡 恒治 大久保 雄 大塚 潔 宮本 渓 辰村 正紀 椎名 逸雄 宮川 俊平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3O2042, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】骨盤傾斜角度は脊柱アライメントに影響を与え、骨盤前傾位では腰椎前彎角は増加し、骨盤後傾位では逆に減少する。腰椎の過剰な前彎は腰痛の原因の一つと考えられ、腰痛のリハビリテーションとして腰椎前彎角を減ずることを目的に下肢のストレッチや骨盤後傾運動が行われている。骨盤前後傾運動においては,体幹の表層に位置するグローバル筋だけでなく,深層に位置するローカル筋の関与が最近の研究によって明らかにされてきているが,まだ詳細については不明な点が多い。また臨床において骨盤前後傾運動を実施する際,その運動範囲や運動様式には個人差が見られ,その評価は評価者の技術・経験などに影響される主観的なものであるため、より客観的に評価するための指標が望まれる。その指標の一つとして,骨盤前後傾可動域は比較的簡便かつ定量化が可能であり,有用だと考える。しかし,これまでに骨盤前後傾運動時の筋活動と可動域との関係を報告した研究は見当たらない。そこで本研究の目的は骨盤自動前後傾運動時の骨盤周囲筋の筋活動を明らかにし,さらに矢状面での骨盤前後傾可動域と筋活動との関係性を明らかにすることとした。【方法】健常成人男性12名(22.6±1.4歳,169.9±5.7cm,69.6±7.6kg)を対象とし,動作課題は立位骨盤中間位から最大前傾位までの骨盤前傾運動,次いで最大後傾位までの骨盤後傾運動を指示し,各運動中の筋電図を計測した。筋電図測定には,両側の腹直筋(RA)、外腹斜筋(EO)、脊柱起立筋(ES)および片側(右側)の広背筋(LD)、大殿筋(GMA)、半腱様筋(ST)、大腿直筋(RF)に表面電極(Vitrode F-150S; 日本光電)を貼布し,両側の腹横筋(TrA)、多裂筋(MF)にはワイヤ電極(UNIQUE MEDICAL社)を超音波ガイド下に23G注射針をガイドとして整形外科医によって挿入した。その後,電極が適切に刺入されていることを確認するために,電気刺激を加えて目的筋の収縮を超音波で描出した。ワイヤ電極刺入に関しては筑波大学倫理委員会の承認を得て実施した。サンプリング周波数は2000Hz,バンドパスフィルターは20-500Hzとした。等尺性最大随意収縮(MVC)時の筋活動で標準化した%MVCを算出し,さらに立位姿勢を保持するために要する筋活動の影響を取り除くため,骨盤前後傾運動時と安静立位保持時の%MVCの差で各筋を比較した。また骨盤前後傾可動域測定には,被験者の上前腸骨棘(ASIS)と上後腸骨棘(PSIS)にマーカーを貼付し,デジタルカメラを用いて矢状面における骨盤前傾位・中間位・後傾位の静止画を撮影した。その後,画像解析ソフトimage-J(NIH)を用いてASISとPSISを結んだ線が水平となす角度(骨盤傾斜角度)から骨盤前後傾可動域を算出した。さらに骨盤前後傾運動でそれぞれ大きい活動を示した筋を抽出し,筋活動と骨盤前後傾可動域との関係性について検討した。分析には骨盤前後傾運動時の各筋の筋活動の比較にTukey HSD法による多重比較検定を用い,骨盤前後傾可動域と筋活動との関係にはPearsonの積率相関係数を算出した。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】被験者には事前に研究について書面と口頭による説明の後,同意を得て研究を実施した。【結果】骨盤前傾運動時には骨盤中間位に比較して,両側のMFが23.9%,右ESは19.0%,左ESは13.6%と有意に増加した。また骨盤後傾運動時は左TrAのみ14.7%と有意に増加した。また,特に大きい活動を示した両側MF(前傾)、左TrA(後傾)と骨盤前後傾可動域との相関係数はそれぞれ,0.68(右MF),0.62(左MF),0.53(TrA)であり,骨盤前傾可動域と両側MFでは有意に高い関係を示した。【考察】骨盤前傾運動では骨盤の上後方に付着するMFやESによって,骨盤の後方が引き上げられ,骨盤の前傾運動が生じると考えられる。一方の骨盤後傾運動では,これまで恥骨に付着するRAが主に作用すると考えられていたが,今回の結果ではRAよりもTrAの筋活動が大きかった。TrAは骨盤前方の腸骨稜や鼠径靭帯にも付着するため,収縮により骨盤の前方が引き上げられ,骨盤後傾運動が生じると考えられる。また,骨盤前傾可動域とMFの間には有意に高い関係が認められたことから,より大きく骨盤を前傾させるには,MFの大きい筋活動が必要とされることが考えられた。骨盤後傾運動では左TrAと後傾可動域に正の相関は認めたものの,ばらつきが大きく個人差や左右差が大きいことも推察された。【理学療法学研究としての意義】本研究により,骨盤自動前後傾運動時の筋活動が明らかとなり,骨盤の運動を客観的に評価する指標として,骨盤前後傾可動域の有用性が示唆された。
著者
山田 将弘 江島 加渚 吉田 英樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.F4P2305, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】直線偏光近赤外線(以下SL)の星状神経節照射は、副交感神経優位になると多々報告がされている。その反面あまり効果がないのではないかという報告もされている。そこで、SLの星状神経節近傍照射は副交感神経優位になるのかということ、さらに、SLの星状神経節近傍照射により副交感神経優位になるという仮説の元、睡眠を誘うか否かという2点を検討することを目的とした。【方法】SLの星状神経節近傍照射には、東京医研株式会社製スーパーライザー(HA-2200・TP1)を使用した。スーパーライザーの先端ユニットをSGユニット・照射モードをTミックスとし、身体に重篤な既往及び疾患のない健常成人25名(男性14名、女性11名、25.1±2.5歳)の星状神経節にSLを体表から10分照射を行った。自律神経機能評価にはフクダ電子株式会社製解析機能付きセントラルモニタ(ダイナスコープ7000シリーズ・DS-7600システム・DS-7640)を用いて、連続する100心拍の心電図R-R間隔変動係数(以下CVR-R)を計測した。対象者に対して、温度(26~27°C)及び湿度(50%前後)を可能な限り一定に保った室内にて、可能な限り交感神経の緊張状態を回避するために安静臥位での馴化時間を設定した。馴化時間については、17例を対象とした予備実験において10分の群と30分の群を比較した結果、明らかな違いは認められなかったので、10分を採択した。CVR-Rの測定は、馴化時間後のSL照射前と照射終了直後とし、両者の値を対応のあるt検定にて検討した。なお、統計学的検定での有意水準は5%未満とした。なお、対象者の内、男性3名、女性2名の計5名には、日本光電株式会社製脳波計(EEG-1714)を使用したSLの星状神経節近傍照射前後での脳波計測を実施し、睡眠段階判定を行った。睡眠段階の判定は医師が行い、睡眠段階判定の基準としては国際基準(Rechtschaffen&Kales,1968年)に基づき判定を行った。【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、対象者には本研究の目的と内容を事前に説明し、研究参加の同意を得て実施した。【結果】SLの星状神経節近傍照射前後でのCVR-Rの変化については、SLの星状神経節近傍照射前と比較して照射後にCVR-Rの上昇を示した例が13例、逆に低下した例が12例であり、SLの星状神経節近傍照射に伴うCVR-Rの変化パターンに一定の傾向は認められなかった(P=0.16)。一方、脳波計側によるSLの星状神経節近傍照射前後での睡眠段階の結果については、男性ではstage1からstageWへの変化例が1例、stage1からstageWへの変化例が1例、stageWから変化なしの1例となり、女性ではstage1からstage2への変化例が1例、stage1からstage3への変化例が1例であった。全体として、睡眠段階のstage変化なしが1例、低下が2例、上昇が2例であった。【考察】本研究では、SL照射は睡眠を誘うか否かを検討した。CVR-RについてはSLによる星状神経節刺激により、自律神経系に影響を及ぼすのではないかと思われたが、副交感神経優位となる傾向は見られなかった。これは、佐伯らの先行研究(2001)と同様の結果であった。本研究で対象とした若年健常例は、自律神経活動が正常と考えられるため、SLの星状神経節近傍照射により大きな影響を受けなかったことも考えられる。また、若年者では安静時交感神経活動が低いとされており、あまり効果が期待できないのではなかろうか。また、脳波計測によるSLの星状神経節近傍照射前後での睡眠段階の結果では、睡眠段階の変化なしが1例、stage低下が2例、上昇が2例となり、睡眠に効果があるとは言い難い結果となった。睡眠段階の判定を担当した医師の見解でも、SLの星状神経節近傍照射は睡眠に効果があるとは言い難い結果となった。しかし、睡眠段階については、女性2名中2名においてSLの星状神経節近傍照射に伴いstageが上昇していたことを考慮すると、性差による違いも考慮した更なる検討が今後必要と考える。【理学療法学研究としての意義】今回の結果を見る限り、SLの星状神経節近傍照射は、自律神経系への効果の面で疑問が残る。他の光線(レーザーやキセノン光)を用いた星状神経節近傍照射との比較研究や、効果の検証を進める必要があるのではなかろうか。その一方で、今回の結果は、女性に対するSLの星状神経節近傍照射が「睡眠への介入の可能性」という観点で、今後更なる検討の余地があることも示している。このことは、理学療法上、極めて意義深い示唆ではないかと考えられる。
著者
井上 和久 原 和彦 須永 康代 荒木 智子 西原 賢 菊本 東陽 丸岡 弘 伊藤 俊一 星 文彦 藤縄 理 髙柳 清美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E4P3192, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】現在、平衡機能低下に対するバランストレーニングとして様々な方法が取り入れられ臨床現場で実施されている。ただ、トレーニングを実施するのであれば、より効果的に楽しみながら実施出来ればそれに超した事はない。昨今、Wiiを使用したトレーニングソフトが話題として取り上げられている。昨年の第44回本学術大会においても、Wiiに関する発表が2題報告された。また、ロンドン・スコットランド・オーストラリアなどの海外においても健康増進・平衡機能向上・健康なライフスタイル等についてWiiおよびWii Fitを使用したトレーニングの効果について現在検証されている。本研究は、2006年に任天堂(株)から発売された家庭用ビデオゲーム機WiiのソフトであるWii Fit(2007年発売)を使用したバランストレーニングの効果を検証した。【方法】対象は、骨・関節系の既往歴のない若年健常成人10名とした。使用機器は、重心動揺計(グラビコーダGS5500、アニマ社製)とWii・Wii Fit・バランスWiiボード(任天堂製)を使用した。Wii Fitソフトの映写機器としてプロジェクターを使用しスクリーンに映写して実施した。測定方法として、最初に1))静的重心動揺計にて重心動揺(開眼閉足30秒:総軌跡長・単位面積軌跡長)を測定、2)バランスWiiボードでWii Fitのバランストレーニング(9種類:ヘディング・バランススキー・スキージャンプ・コロコロ玉入れ・綱渡り・バランスMii・ペンギンシーソー・バランススノボー・座禅)を20分間実施、3)トレーニング直後に再度静的重心動揺計にて重心動揺を測定。バランストレーニングは、1週間のうち被験者の任意の3日間(1日1回20分間)をバランストレーニングとしてWii Fitで実施させ、それを4週間継続的に実施した(計12日間:240分)。バランストレーニングの種類は、最初はヘディング・バランススキー・スキージャンプ・コロコロ玉入れの4種類を必ず実施させ、その後は被験者の好みによりランダムに実施した。なお、9種類のうち5種類のバランストレーニングについては、トレーニングの実施経過時間により順次増えていく内容となっている(10分実施後:綱渡り、60分実施後:バランスMii、90分実施後:ペンギンシーソー、120分実施後:バランススノボー、180分実施後:座禅の順にトレーニング項目が追加されていく)。また、バランストレーニングの前に必ずバランスWiiボードで重心を測定し、被験者の重心位置を確認させた上でトレーニングを実施した。バランストレーニング前後の統計処理は、PASW Statistics Ver.18.0を使用し、ウィルコクスンの符号付順位検定を行い、有意水準は危険率5%未満とした。【説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言に則り被験者に研究の目的や手順を説明して署名による同意を得た。【結果】総軌跡長においては、バランストレーニング前後で何ら有意な差は認められなかった。単位面積軌跡長においては、バランストレーニング開始前と開始1・2・3週間後とにおいて有意な差が認められた(p<.05)が、バランストレーニング開始前と開始4週間後とにおいては有意な差は認められなかった。【考察】今回の研究結果からWii Fitのバランストレーニング効果は、静的な立位重心動揺に明らかな効果が認めらない事が示唆された。しかし、固有受容性姿勢制御度の指標である単位面積軌跡長の結果においては、バランストレーニング開始前に比べ開始1・2・3週間後に有意な増加傾向が認められた。Wii Fitのバランストレーニングの種類として主にバランスWiiボード上で前後左右の重心移動によりゲーム感覚で得点を競う特性があるため、総軌跡長というパラメータの特性には変化が認められず、重心を細かく制御する単位面積軌跡長というパラメータの特性に変化が認められたと考えられる。なお、Wii Fitのバランストレーニングとして9種類用意されているが、それぞれトレーニングの方法が違うため今後各被験者が実施したバランストレーニングの種類についても因子分析を行う必要性がある。【理学療法学研究としての意義】今回のバランストレーニングは週3日4週間継続という短い期間での実施だったが、今後はより継続的に実施した場合の効果についても検証し、より効果のあるトレーニングかどうか明確になれば臨床現場でのバランストレーニング以外に、家庭でも容易にバランストレーニングを実施する事が提案でき、継続的なバランストレーニングの効果を期待できる可能性があると考えられた。さらに、国民の健康増進や平衡機能向上にもつながる事が期待される。
著者
溝田 勝彦 村田 伸 堀江 淳 村田 潤 大田尾 浩
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E3O1193, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】わが国では世界に類を見ない速さで高齢化が進んでいるが,高齢者の自殺や閉じこもり,介護者による高齢者の虐待など,必ずしも長生きしている高齢者が幸福に暮らしているとはいえない状況にあり,高齢者のQOL(Quality of life)の向上は大きな課題といえる. これまで,主観的幸福感や日常生活満足度など,QOLの一領域に影響を与える要因分析の報告は多く,その要因の一つとして経済状態や経済状態への満足感が挙げられている.しかし,QOLを多面的に捉え,経済状態の主観的評価が,QOLの各領域にどの程度影響を与えるかについての報告はほとんど見あたらない.そこで今回,福岡県の地域在住高齢者を対象として,実際の収入の程度とは関わりなく,現在の自分の暮らし向きについてどのように感じているかという主観的経済状況感とQOLの各領域(活動能力,主観的健康感,生活満足度,生きがい感,人間関係の満足度)との関係について検討することを目的として調査を実施した.【方法】F町のミニデイサービス事業に登録している高齢者の内,331名(男性66名,女性265名)から調査協力が得られた.調査は2008年8月から9月にかけて実施した.しかし,男性の対象者数が女性の約4分の1と少なかったため,今回は女性高齢者265名(平均年齢は73.5±6.5歳)のみを対象とした.なお,重度の認知症を疑わせる者(Mini-Mental State Examination;MMSEで19点以下)はいなかった. 方法は,個人の基本的属性(氏名,年齢,性別,家族人数,教育年数)に関する情報の収集とMMSEを実施した後,主観的経済状況感として暮らし向きの主観的評価,健康関連QOLの評価として老研式活動能力指標,主観的QOLの評価として主観的健康感,生活満足度,生きがい感,人間関係に関する満足度を質問紙にて評価した.主観的経済状況感の評価は,「ゆとりがあり,まったく心配なく暮らしている」「ゆとりはないが,それほど心配なく暮らしている」「ゆとりがなく,多少心配である」「生活が苦しく,非常に心配である」の4件法で求めた.主観的QOLの評価にはVisual Analogue Scale用いた.統計処理は対応のないt-検定を用いて行った.なお,統計解析ソフトはStatView5.0を用い,有意水準を5%とした.【説明と同意】参加者に対し,研究の趣旨と内容について十分に説明をした後,書面で同意が得られた高齢者のみを対象者とした.また,調査の途中いつでも自由に拒否できることも伝えた.【結果】暮らし向きについては,「ゆとりがあり,まったく心配なく暮らしている」が57名,「ゆとりはないが,それほど心配なく暮らしている」が171名,「ゆとりがなく,多少心配である」が37名で,「生活が苦しく,非常に心配である」と回答した者はいなかった.そこで,「ゆとりがあり,まったく心配なく暮らしている」57名をゆとりあり群,「ゆとりがなく,多少心配である」37名をゆとりなし群として,2群を比較検討した.その結果,年齢,MMSE,健康関連QOLにおいては有意差は認められなかった.一方, 主観的QOLのすべての領域において有意差が認められ,ゆとりあり群がゆとりなし群よりも高い値を示した.また,家族人数はゆとりあり群が有意に多く,教育年数も有意に長かった.【考察】今回の結果から,経済状況の主観的評価が主観的QOLの各領域すべてに影響を与えることが示唆された.このことは,高齢者を取り巻く経済環境が厳しくなり,経済状況についての主観的評価が低下すれば,その結果として高齢者の主観的QOLの各領域(主観的健康感,生活満足度,生きがい感,人間関係の満足度)が低下する可能性があることを示している.2006年度の高齢者の経済生活に関する意識調査では,60歳以上の対象者において「現在の暮らしに経済的に心配がある」者は,5年前の調査より約1 割増加している.さらに今日の日本の経済状況を考えると,高齢者の経済状況についての主観的評価は更に低下することが予想され,高齢者の主観的QOLの低下が危惧される.最後に,今回の対象者は町からの呼びかけに対して自主的に参加した活動的な女性高齢者であることから,今回の結果が高齢者一般に適用できるか否かについては検討する必要がある.【理学療法学研究としての意義】リハビリテーションの究極の目的は,対象者やその関係者のQOLの向上であるといわれており,理学療法においても同様と考えられる.今回の結果は,客観的な経済状況(年収など)のみならず,主観的QOLに影響を与える一因子としての主観的経済状況感も把握しておくことが,理学療法を進めていく上で不可欠である事を示している.
著者
吉岡 佑二 南角 学 伊藤 太祐 中村 孝志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A4P2081, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】股関節外転筋群は骨盤の安定性に関して重要な役割を果たし、歩行能力を左右する。股関節外転筋力が低下する代表疾患として変形性股関節症が挙げられるが、臨床現場においてはこういった股関節疾患の患者に対して背臥位での股関節外転運動により筋力トレーニングを行うことがある。同時に変形性股関節症患者で骨盤アライメント異常を呈している場合では、背臥位での股関節外転運動をスムーズに行えない症例を経験する。しかし股関節外転運動についての過去の研究では、股関節外転角度や屈曲角度の違いが股関節周囲筋の筋活動に及ぼす影響を検討したものが中心であり、骨盤肢位が股関節周囲筋の筋活動にどのような影響を及ぼすかは不明な点が多い。本研究の目的は、背臥位での骨盤肢位の違いが、股関節外転運動における発揮筋力および下肢と体幹の筋活動に与える影響を明らかにすることである。【方法】対象は健常成人男性14名(平均年齢24.0±2.8歳)とした。測定肢位は安静背臥位を骨盤中間位とし、その肢位からの骨盤最大前傾位、最大後傾位の3条件とした。骨盤前傾には硬性スポンジを腰仙椎部に、後傾には仙尾椎部に挿入することで傾斜角度を調節した。それぞれの骨盤肢位において、一側下肢を股関節0度外転位から股関節外転の最大等尺性収縮を5秒間行わせ、そのときの発揮筋力および下肢と体幹筋の筋活動を測定した。股関節外転の最大等尺性収縮時の発揮筋力は、徒手筋力計(日本メディックス社製)を用いて測定し、抵抗位置は足関節の外果とした。大転子から外果までの距離を測定し、筋力値はトルク体重比(Nm/kg)にて算出した。筋電図の測定に関しては、測定筋を大腿直筋(RF)、大腿筋膜張筋(TFL)、中殿筋(Gm)の中部線維、腰部脊柱起立筋(LES)とし、表面筋電図計Data LINK(Biometric社製)を使用した。筋電図の波形処理は、測定した生波形から安定した3秒間を二乗平均平方根により平滑化し、各筋の最大等尺性収縮(MVC)時の筋活動を100%として各測定値を正規化し、%MVCを算出した。統計学的分析には反復測定一元配置分散分析と多重比較法を用い、有意水準は5%未満とした。【説明と同意】各対象者には、本研究の趣旨ならびに目的を詳細に説明し、参加の同意を得た。【結果】股関節外転運動時の筋力値は骨盤中間位で2.42±0.33Nm/kg、前傾位で2.13±0.27Nm/kg、後傾位で2.02±0.20Nm/kgであり、多重比較の結果、骨盤前傾位、後傾位のいずれも中間位に比べ有意に小さい値を示した。各筋の筋活動については、RFの%MVCは骨盤中間位で76.4±42.1%、前傾位で54.7±29.4%、後傾位で70.0±37.5%であり、骨盤前傾位では他の2条件に比べ有意に小さい値を示した。TFLの%MVCは骨盤中間位で99.2±36.8%、前傾位で84.6±36.0%、後傾位で96.7±44.2%であり、骨盤前傾位では中間位に比べ小さい傾向を示した(p=0.08)。Gmの%MVCは骨盤中間位で64.2±15.8%、前傾位で66.7±15.2%、後傾位で53.9±19.4%であり、骨盤後傾位では他の2条件に比べ有意に小さい値を示した。LESの%MVCは骨盤中間位で34.3±18.0%、前傾位で37.8±23.9%、後傾位で24.1±16.6%であり、骨盤後傾位では他の2条件に比べ有意に小さい値を示した。【考察】骨盤前傾位ではTFLが短縮位となることで股関節外転運動時のTFLによる筋出力が低下し、骨盤後傾位ではGmの中部線維が短縮位となることで股関節外転運動時のGmによる筋出力が低下すると考えられる。これらのことが要因となり、骨盤前傾、後傾位での股関節外転運動における発揮筋力は、骨盤中間位と比較して有意に低い値を示したと考えられた。以上から、背臥位での骨盤肢位により股関節外転に作用する筋群の走行が変化し、これが股関節外転筋の筋活動に影響を及ぼすことで発揮できる筋力にも関与することが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から、骨盤のアライメント異常がある股関節疾患患者に対してより効率的な股関節外転筋の筋力トレーニングを行うには、骨盤肢位を考慮することが重要であることが示唆され、本研究は理学療法学研究として意義のあるものと考えられた。
著者
アルカバズ ユセフ 嶋田 智明 小川 恵一 有馬 慶美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C4P2159, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】本研究の目的は,重さの異なるリュックサックを背負った際の,体幹姿勢と体幹・下肢の筋活動の変化について分析することである.この領域の先行研究においては,リュックサックを背負うことと腰痛の関連性が指摘されている.しかしながら,多くの研究が学童児を対象としたものであり,成人を対象としたものは少ない.そこで本研究においては成人におけるリュックサック負荷の影響を確認することとした.【方法】対象は1 9名の健常男子大学生(平均年齢は21±3歳)であった.方法は,4つの異なる重量のリュックサックを負荷した立位で筋活動および姿勢を測定した.4つの立位肢位は,(1)リュックサックを背負わない立位,(2)被検者の体重の10%に相当するリュックサックを背負わせた立位,(3)15%のリュックサックを背負わせた立位および(4)20%のリュックサックを背負わせた立位であった.筋活動は両側の腹直筋,脊柱起立筋,内側広筋および大腿二頭筋を表面筋電計で記録した.一方,体幹姿勢はVICON250を用いて,矢状面,前額面および水平面で記録した.なお,データの記録は開始から10秒後の5秒間行った.また,疲労の影響を考慮しすべての測定の間に1分間の休憩を挿入した.得られたデータの統計処理はRepeated ANOVAを用い,有意水準を5%未満とした.【説明と同意】対象者には,口頭および書面にて研究趣旨,方法および実験に伴うリスクについて説明し,書面にて同意を得た.【結果】脊柱起立筋,内側広筋および大腿二頭筋の筋活動はリュックサック重量の変化に伴う増加率に差は生じなかった.一方,腹直筋の活動は,リュックサック重量の増加に伴い増加した(P<0.05).しかしながら,そのリュックサック重量の増加に伴う筋活動の増加率は直線でなく,負荷なしの立位肢位と体重の10%に相当するリュックサックを背負わせた立位肢位の間で最も高い増加率を示し,15%,20%では緩やかな増加率であった.一方,体幹姿勢の変化は,リュックサックを背負わない立位肢位を0°とした場合,体重の10%に相当するリュックサックを背負わせた立位肢位で3.37°伸展し,その後の15%,20%でもそれぞれ3.02°,3.90°とリュックサック重量の増加に伴う変化は確認されなかった.しかしながら,リュックサックを背負わない立位肢位と比較した場合,すべての重量で有意に伸展した(P<0.05).【考察】リュックサックを背負わない場合と比較して,リュックサックを背負うことにより腹筋群の筋活動と体幹伸展角度が増加した.しかしながら,筋活動はリュックサック重量の増加に伴って増加したのに対して,伸展角度はリュックサックを負荷した際には増加したが,その角度はリュックサック重量に左右されなかった.これは,リュックサック重量が増加しても一定の姿勢を保つための身体の生理的反応と考えられる.この傾向は,体重の20%に相当するリュックサックを背負わせた際に最も顕著となったため,腰部へのリスクという観点から避けるべきであろう.しかしながら,今回の研究においては,リュックサックの使用頻度,使用時間,種類そして使用者の幅広い年齢層に関する因子については言及できないため,今後,それらの因子の影響について検討すべきである.【理学療法学研究としての意義】本研究は理学療法研究の中でも疾病および傷害予防に属するものである.近年,リュックサックの使用頻度は増加傾向にあり,それにより発生する腰痛を未然に防ぐことは,筋骨格系疾患の予防,治療およびリハビリテーションを担う理学療法士にとって重要な使命である.したがって,本研究はリュックサックに由来する問題のメカニズムを明らかにする一助となると考える.
著者
山下 和樹 岩井 信彦 青柳 陽一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B4P2150, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】Pusher現象を有する脳血管障害患者の姿勢保持能力に対するアプローチとして、垂直指標と視覚的手がかりの有効性が提唱されている。しかし垂直指標1つの提示では体幹回旋位、体幹側屈位等でも垂直指標を視覚的手がかりとし、直立位から逸脱した姿勢を学習するため本来の効果が半減する可能性がある。そこで本研究では坐位体幹直立位にて、垂直指標を患者の前方に直列で2本提示し、その2本の垂直指標が重なる位置で姿勢を保つように指示することで、端坐位保持時間の延長・坐位保持姿勢の改善につながる可能性を考え、pusher現象を有する2症例でパイロット研究を行った。【方法】対象は、右視床出血発症28日後の60代男性(症例1)、および左内包後脚のラクナ梗塞発症32日後の80代男性(症例2)であった。両症例ともcontraversive pushing臨床評価スケールは4点で、端坐位保持時間は1分未満であった。この2名に対し垂直指標未提示(以下未提示)、垂直指標1本提示(以下1本提示)、垂直指標2本提示(以下2本提示)の3通りの方法をランダムに用いて、端坐位保持時間の計測と姿勢変化の観察を3日間行った。垂直指標は、1本提示時は患者から1m前方に、2本提示時は1m前方および2m前方に設置した。口頭指示として未提示時は「姿勢をまっすぐして転倒しないように」、1本提示時は「棒のようにまっすぐ姿勢を正して転倒しないように、しっかりみつめて」、2本提示時は「棒が重なって見える所で姿勢を正して転倒しないように、しっかりみつめて」と指示した。端坐位時、両手背を転倒する直前まで大腿部に接地し、上肢又は体幹の一部がベッド面に接地するまでの時間を理学療法施行前に計測した。各試行の計測順は乱数表を用いて行った。計測時、患者に不安を与えないよう後方にセラピストが位置し、安全に配慮して行った。【説明と同意】患者には本研究の目的・内容について説明し、本研究で得た情報は本研究以外には使用しないこと、拒否しても一切不利益が生じないことを説明し、同意を得た。【結果】計測初日の坐位保持時間は症例1では未提示25秒、1本提示41秒、2本提示49秒、症例2では、それぞれ23秒、44秒、55秒と2本提示時に端坐位保持時間が延長する傾向が認められた。両症例とも、計測2日目、3日目は端坐位保持時間が延長し、未提示、1本提示、2本提示の順に延長する傾向は同様であった。姿勢観察では未提示時に体幹側屈位が著明にみられた。1本提示時は未提示時と比べ体幹側屈は軽度改善もしくは変化なく、体幹回旋の発生がみられた。2本提示時は未提示時・1本提示時と比べ体幹側屈、回旋の減少がみられた。両症例とも4日目以降は静的坐位で直立坐位保持が可能となった。【考察】本研究では未提示、1本提示、2本提示の順で端坐位保持時間が延長する傾向が認められた。Karnath et al(2003)は、pusher現象例の視覚的垂直認知は正しくても、身体的垂直認知は非麻痺側に大きく傾いているため、両要素のギャップを埋め合わすために「押す」現象が生起する、としている。アプローチについては、垂直指標と視覚的手がかりの有効性に焦点が当てられており、症例に姿勢の認知的歪みを理解させること、視覚的に身体と環境の関係を認知させること、治療者によって視覚的手がかりを付与すること、その手がかりによって直立姿勢を学習することが重要であると述べている。しかし、1本提示では、頭頚部が床面に対し平行にある状態で体幹の側屈、回旋等が発生しても、その端坐位姿勢で視覚的に垂直位であると認識してしまう可能性が高く、それを口頭指示で矯正を図っても身体的垂直認知が障害されているため混乱を生じる可能性が高い。2本提示では、体幹直立位の状態で2本垂直指標が1つに重なる位置で姿勢を保つように提示することで、垂直指標が2本に見えれば姿勢が崩れていることを認識しやすくなり、誤った端坐位姿勢での学習を防ぐことができると考えられる。このため未提示・1本提示時に比べ2本垂直指標提示時の方が端坐位保持時間の延長に至ったものと思われる。【理学療法学研究としての意義】Pusher現象に対するアプローチとして体性感覚入力や視覚刺激入力を用いたアプローチ等が挙げられ臨床的にはいずれもある程度効果があるとされているが、どちらが有効な手段であるかは不明である。今回のパイロット研究では症例数は少なかったものの、1本提示、2本提示になるに従い、端坐位時間の延長傾向、姿勢改善がみられた。今後さらに症例を重ね2本垂直指標提示での坐位保持能力の効果を検討していきたい。
著者
桑原 渉 浦辺 幸夫 山中 悠紀 櫻井 友貴 冨山 信次 藤井 絵里
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H4P3259, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】体幹筋は体幹の運動と安定化に寄与し、腰椎部への負担を減少させる働きを担っている。Basmajian(1985)は、安静立位時であっても、脊柱起立筋群と腹筋群の持続的な活動がみられるとし、さらに基本的立位姿勢では脊柱起立筋の活動が優位であると述べている。しかし実際には脊柱起立筋群の活動が優位な人だけではなく、腹筋群を優位に活動させ、立位姿勢の保持をする人もおり、安静立位時の体幹筋活動には個体差が大きいのではないかと考えた。また、三谷ら(2008)は、腰仙椎アライメントと体幹屈曲力/伸展力(F/E)比との間に負の相関があり、腰仙椎アライメントの変化が体幹の筋活動に変化を生じさせ、その結果体幹筋力にも変化が及ぶと報告している。このように立位時における体幹筋活動や、体幹筋力についての報告は行われているが、体幹筋活動と体幹筋力の関係を報告した先行研究は見当たらない。そこで本研究では、安静立位時の脊柱起立筋群および腹筋群の筋活動の違いにより、体幹筋力に差があるかを明らかにすることを目的とした。仮説は、安静時に脊柱起立筋群を優位に活動させている対象はF/E比が小さく、腹筋群を優位に活動させている対象はF/E比が大きいとした。【方法】対象は体幹に整形外科疾患の既往がない健常男性12名とした。年齢(平均±SD)は22.0±1.0歳、身長は171.8±7.0cm、体重は60.9±7.0kgであった。筋活動の測定肢位は安静立位とした。閉脚立位肢位にて骨盤中間位で、両上肢を胸の前で組み、2m前方の視線と同じ高さのものを注視させた。その課題を20秒間保持させ、10秒後から5秒間筋活動の測定を行った。体幹筋力の測定は、等尺性体幹筋力測定装置GT-350(OG技研製)を用いて、股関節、膝関節それぞれ90°屈曲位の椅坐位で最大等尺性収縮の筋力を測定した。数回の練習後、屈曲力、伸展力の測定を各3回ずつ行い、ピーク値を体重比に換算し、屈曲力を伸展力で除すことでF/E比を算出した。筋活動の測定には、表面筋電図Personal-EMG(追坂電子機器製)を用いた。対象筋は右側の腰部脊柱起立筋と腹直筋の2筋とした。電極の貼り付けは下野ら(2004)の方法を参考に行った。各筋の活動量は最大等尺性収縮時(Maximal Voluntary Contruction:MVC)のroot mean square value(RMS)を100%として正規化した。対象12名のうち、安静立位時において腰部脊柱起立筋より腹直筋の筋活動が高い4名を屈筋群、腹直筋より腰部脊柱起立筋の筋活動が高い8名を伸筋群として2群に分類し、それぞれの%MVC、筋力、F/E比を両群間で比較した。両群間の統計学的検定には対応のないt検定を用い、危険率5%未満を有意とした。【説明と同意】対象には事前に研究の説明を十分に行い、紙面にて同意を得て測定を行った。なお、本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て行った(承認番号 0949)。【結果】屈筋群の筋活動は腰部脊柱起立筋で14.0±4.5%、腹直筋で18.2±4.5%、伸筋群の筋活動は腰部脊柱起立筋で16.3±5.6%、腹直筋で10.2±4.8%であった。屈筋群の屈曲力は17.1±1.1N/kg、伸展力は12.6±2.3N/kgであり、伸筋群は各々18.0±2.8N/kg、16.1±3.3N/kgとなり屈筋群と伸筋群で筋力において有意差はなかったが、屈筋群のほうが低い伸展力を示す傾向がみられた。F/E比は屈筋群で140.9±25.8%、伸筋群で112.9±11.0%となり、屈筋群のほうが有意にF/E比が大きくなった(p<0.05)。【考察】本研究では、Basmajianの報告と同様に、安静立位時では腹筋群に比して脊柱起立筋群の筋活動が高い対象が12名中8名と多いことが確認できた。屈筋群は伸筋群と比して伸展力が低い傾向にあり、さらにF/E比が大きいことが示された。つまり、安静時の腹直筋の筋活動が高い者は、体幹の伸展力が低いことでF/E比を大きくしていることがわかった。これに対して、伸筋群は屈曲力も伸展力も大きく、F/E比が小さくなっていた。このことから屈筋群は姿勢制御方法が伸筋群と異なることが考えられた。つまり、本研究での屈筋群と伸筋群の違いは日常生活やスポーツを含めた活動のなかでの姿勢制御の結果かもしれない。Klausenら(1968)は、上半身を後方に傾け、重心線が後方に移動すると、脊柱起立筋群の活動は停止し、腹筋群の活動が高くなると述べ、姿勢と体幹筋活動の関連を述べている。本研究では、姿勢についての測定は行っていない。そのため、静的な姿勢、さらには動的な姿勢制御を分析し、屈筋群と伸筋群の違いを明らかにしていく必要がある。【理学療法学研究としての意義】安静立位時に脊柱起立筋群が優位に活動している者のみでなく、腹筋群が優位に活動する者が存在することを明らかにできたことが本研究の意義である。このような違いが、筋力発揮の面からも特徴を呈していることがわかり、今後の理学療法学の発展に資するものであると考える。
著者
鶴田 猛 富崎 崇 酒向 俊治 太田 清人 田上 裕記 南谷 さつき 杉浦 弘通 江西 浩一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E4P3193, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】我々は、日常生活における活動場面において、その活動目的や趣味、嗜好に合わせ履物を選択し使用している。仕事で使う安全靴やスポーツ活動で使用する運動靴、外見の美しさを追求するパンプスなど、履物の種類は多種多様である。様々な活動に必要な姿勢変化や動作が安定して行われるためには、足底と床とが十分に接し、足部にて荷重を適切に受け止める必要がある。歩行による、骨・関節、軟部組織など足部の機能変化は、支持基底面や足部支持性に影響を及ぼし、安定した立位や歩行などの能力改善をもたらすものと考える。これまで、履物と歩行との関連に関する研究は多数報告されているが、足部機能等の評価法の一つである「足底圧」との関連を報告した例は少ない。本研究は、歩行時における履物の違いによる重心の軌跡の変化を捉えることにより、履物が足部機能に与える影響を明らかにすることを目的とする。【方法】対象は健康な若年成人女性6名(年齢18~32歳)とし、使用した履物は、一般靴及びパンプス、サイズはすべて23.5cmとした。歩行にはトレッドミルを用い、速度4km/h、勾配3%に設定し、裸足、一般靴、パンプスを着用し、1分間の慣らし歩行の後、30秒間(各靴3回測定)の足圧測定を行った。足圧測定には、足圧分布測定システム・F―スキャン(ニッタ株式会社製)を使用し、裸足、スニーカー、パンプス着用時の重心(圧力中心)の移動軌跡長を比較検証した。実験より得られた足圧分布図において、重心点の開始位置(始点・踵部)及び終了位置(終点・踏み付け部)を算出し、(1)始点(2)終点(3)重心の長さの3項目について、それぞれの全足長に対する割合を求め、裸足、一般靴、パンプスにおけるそれぞれの値を対応のあるt検定にて比較検討した。【説明と同意】被験者には、本研究の趣旨、内容、個人情報保護や潜在するリスクなどを書面にて十分に説明し、同意を得て実験を行った。【結果】始点において、裸足は一般靴及びパンプスとの比較で有意に値が小さく、パンプスは一般靴よりも有意に大きな値が認められた。終点において、裸足はパンプスとの比較で有意に小さな値が、パンプスは一般靴よりも有意に大きな値が認められた。裸足と一般靴との間に有意差は認められなかった。重心の長さにおいて、裸足は一般靴及びパンプスとの比較で有意に大きな値が認められた。一般靴とパンプスとの間に有意差は認められなかった。 始点は、裸足、一般靴、パンプスの順で裸足が最後方(踵部)に最も近く、終点は、一般靴、裸足、パンプスの順でパンプスが最後方(踵部)から最も遠く、重心の長さは、パンプス、一般靴、裸足の順でパンプスが最も短かった。【考察】裸足歩行では、一般靴及びパンプスを着用した歩行に比べて重心の長さが顕著に長く、始点が最も後方に位置していることから、踵部でしっかりと荷重を受けた後、踏み付け部に重心が至るまで、足底全体を使って歩行していることが分かった。また、足圧分布図の重心軌跡を見てみると、重心線の重なりが少なく、履物を着用した歩行の重心軌跡に比べて、足部内外側へのばらつきが大きいことが見られたことから、履物を着用することにより、足関節及び足部関節の運動が制限され、結果的に重心の移動範囲が限定される傾向があることが示唆された。 パンプスを着用した歩行では、始点・終点ともに最も前方に位置していることから、本来、踵部で受けるべき荷重の一部が前足部に分散し、前足部における荷重ストレスが増強していることが推測される。更に、踵離地における荷重が踏み付け部前方もしくは足趾においてなされている傾向があり、蹴り出しに必要な足趾の運動が制限されるなど、足部が正常に機能していない可能性がある。また、重心の軌跡が最も短いことから、足部の限局した部位を使用した歩行であることが示唆された。このような足部の偏った動きが、将来足部病変をもたらす可能性につながると思われる。【理学療法学研究としての意義】我々は、ライフスタイルや職業の違いにより、様々な履物を着用して活動しているが、外反母趾や扁平足、足部の痛みや異常を訴えるケースは非常に多い。歩行時における履物の違いが足部に与える影響を理学療法学的に検証することで、より安全で機能的な履物の開発の一翼を担うことができ、国民の健康増進に寄与できるものと考える。
著者
森本 晃司 桜井 進一 内藤 慶 青柳 壮志 奥井 友香 加藤 大悟 遠藤 康裕 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3O1119, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】ラグビーやアメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツにおいて,脳震盪などの頭・頚部の外傷は時として重大な事故を引き起こすことから,安全対策上重要な問題として取り扱われる.国際ラグビー評議会の定款では,未成年のラグビープレイヤーは脳震盪を生じた場合,3週間の練習・試合を禁止するとされており,頭・頚部の外傷は頚部筋力を向上させることで予防可能との報告もある.本研究の目的は,高校生ラグビープレイヤーにおける頚部筋力と周径の関連,脳震盪と頚部筋力の関連について検討し,脳震盪予防の一助とすることである.【方法】 対象は全国大会レベルの群馬県N高校の高校生ラグビープレイヤー69名(1年生30名,2年生18名,3年生21名)とした.評価項目は経験年数,過去8カ月間の脳震盪の有無(1年生を除く),頚部周径,頚部筋力とした.頚部周径はメジャーを使用し直立位にて第7頸椎棘突起と,喉頭隆起直下を通るように測定した.頚部筋力の測定にはアニマ社製ハンドヘルドダイナモメーターμTasMF-01を使用した.測定肢位は臥位とし,両肩と大腿部を固定した.センサーはベッドに固定用ベルトを装着した状態で額,後頭部,側頭部の各部分に当て,頚部屈曲,伸展,左右側屈の等尺性筋力を3秒間測定した.各方向3回ずつ測定し,最大値を採用した.統計学的処理にはSPSS ver.13を用い,頚部筋力と周径,経験年数の関係にはspearmanの順位相関係数を用い,各学年間の頚部筋力,周径との関係には一元配値の分散分析後,Tukeyの多重比較検定を行った.また脳震盪経験の有無と頚部筋力・周径の関係には対応のないt-検定を用い有意水準は5%とした.【説明と同意】チーム指導者並びに対象者に対し本研究の主旨及び個人情報保護についての説明を十分に行い,署名による同意を得て実施した.【結果】2,3年生計39名のうち,脳震盪経験者は28名であり非経験者は11名であった.脳震盪経験の有無で頚部筋力を比較した結果,頚部筋力,周径ともに有意差は認められなかった.頚部筋力と周径では有意な相関関係が認められた(P<0.05,R=0.52~0.65)が,経験年数と頚部筋力及び周径との間には相関関係は認められなかった.学年間の頚部筋力の比較では全項目において有意差が認められ,また,学年間の周径においても有意な差が認められた(P<0.05).多重比較検定では,頚部筋力では1年生に対して2,3年生の筋力が有意に高く(P<0.05),2年生と3年生との間に有意な差は認められなかった.頚部周径では1年生と3年生にのみ差が認められ、3年生の周径が有意に大きかった(P<0.05). 【考察】本研究における脳震盪の有無と頚部筋力の検討では,両群で有意差は認められなかった.タックル動作において,脳震盪となる場面ではタックル時に頭部が下がる,飛び込むなどのスキル的な要素や,瞬間的に頚部を安定させる筋収縮の反応などの要素も関連していると考えられる.今回の研究ではそれらの要素は検討できていないため,両群で差が見られなかったものと考える.また,各学年と頚部筋力の検討では1年生と他学年との間に有意な差が認められたが,経験年数と頚部筋力との間に相関関係は認められなかった.群馬県では中学校の部活動としてラグビー部はなく,経験者も週1回程度のクラブチームの練習に参加する程度である.このため,1年生では経験者であっても十分な頚部筋力トレーニングが行えていない可能性が考えられる.また,頚部筋力と周径ではすべての項目で相関関係が認められたことから,選手のコンディショニング管理の一つとして,筋力測定器などがない場合には,頚部周径を確認しておくことの意義が示唆された.頚部筋力は脳震盪予防のための重要な一要因であるが,今回は頚部筋力と脳震盪経験の有無とに関連は見られなかった.今後はタックル動作のスキルや,筋の反応時間なども検討することが課題である.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,高校1年生と2・3年生の頚部筋力の違いが明らかとなり,新入生に対する早期からの筋力評価とトレーニングの重要性が示唆され,スポーツ障害予防のための基礎的資料となる.
著者
黄 啓徳 田中 齊太郎 泉 唯史 森谷 敏夫
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.F4P2297, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】 高齢社会が進む昨今、高齢者がADLやQOLを保ち続けるためには、機能的自立度を維持・向上することが、不可欠である。特に、歩行能力は機能的自立度の大きな要因となっており、例えば、歩行速度の改善により、死亡率が改善することが報告されている(Hardy et al. 2007)。また、高齢者における歩行制限は、転倒・骨折、寝たきり、認知症などの問題に関連し、ADL低下(Guralink JM.1995)などの予測因子になる。このことから、高齢者の歩行能力の維持・向上は大きな課題といえよう。 近年、筋力が低下した高齢者や糖尿病などの疾患保有者に対する運動療法として、筋電気刺激(以下EMS)が着目されている。EMSの特徴は、運動弱者に対しても、弱い強度で、選択的に速筋線維を動員する(Hamada et al. 2003)ことで、筋肥大を引き起こす可能性が示唆されている。 本研究では、通所リハビリテーション(以下デイケア)を利用する高齢者に対し継続的にEMSを行い、機能的自立度、特に歩行能力に及ぼす影響を検証することを目的とした。【方法】 実験参加者は当院併設のデイケア施設の利用者のうち、10m以上の歩行が可能な18名(mean ± SE, age = 76.3 ± 1.9 yr, 介護度 = 1.9 ± 0.2 )とし、EMS群10名(通常のデイケアプログラムに加えて、EMSを行う群)とCON群8名(通常のデイケアプログラムのみを行う群)にランダムに振り分けた。EMS群は1日20分週3回のEMSを下肢4箇所(大腿四頭筋、ハムストリングス、前脛骨筋、下腿三頭筋)に対して8週間行った。 EMS群、CON群とも8週間の実験期間の前後に、10m歩行テスト(通常歩行の歩行速度・歩調・歩幅)、チェアスタンドテスト(5回の立ち上がり)、関節可動域(膝関節屈曲角度・股関節屈曲角度)、握力、ファンクショナルリーチテスト、ステッピング、開眼片脚立位、膝伸展筋力の体力テストを行い、機能的自立度を評価した。【説明と同意】 本研究に対しては、実験計画書を当院倫理委員会に提出、承認を得た。また、実験参加者に対しては口頭および文章にて本研究の趣旨、研究内容、期間等を説明し、同意書にて署名をし、本研究の同意を得た。【結果】 EMS群では、10m歩行テスト中の歩行速度、歩幅、歩調、チェアスタンドテスト、膝関節屈曲角度、股関節屈曲角度、握力、ステッピングについて、実験後の体力テストにおいて、実験前に比べ、有意に上昇した(p<0.05)。また、それ以外の項目に関しては、有意な変化は見られなかった。 一方、CON群は、すべての項目について、有意な変化は見られなかった。【考察】 本実験では、EMS群においてのみ、歩行速度の有意な増加が確認された。歩行速度=歩幅×歩調で表されることをふまえると、歩行速度の増加は、歩幅、歩調の両方の増加によるものであると示唆された。また、歩幅の増加は、チェアスタンドテストで表される筋パワーの増大と関節可動域の改善によるものと示唆される。一方、歩調の増加は、ステッピングによって表される敏捷性の改善によるものと示唆される。 このことにより、通常のデイケアのプログラムにEMS20分を週3回・8週間付加することにより、歩行速度を中心とした機能的自立度の改善の可能性が示された。【理学療法学研究としての意義】 本実験では、通常のデイケアプログラムのみを行った群では、実験前後の変化が確認されなかった。このことは、通常のデイケアプログラムのみを8週間行うことにより、機能的自立度が維持されることを示唆している。だが、電気刺激を短期間(8週間)付加することにより、機能的自立度の維持だけではなく、一部の機能において向上することが認められた。 脳血管疾患、転倒・骨折、関節症、認知症などの理由で、通常の運動療法では、機能的自立度の改善に必要な運動強度に達しない高齢者は少なからず存在する。そのような高齢者に対してEMSは、能動的な運動療法が困難な高齢者に対しても、今後非常に有用な手段になると考えられる。
著者
野間 俊司 伊東山 洋一 中村 智哉 市坪 明子 工藤 理沙 千代田 愛美 永田 英二 松崎 智範 河崎 和博
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B3O1084, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】脳卒中片麻痺が装具を装着する際、片手でベルトを角環に通す動作は意外と難しい。また、利き手が麻痺した症例なら更に装着は困難となる。そこで角環の上部に隙間を空け、ベルトを通しやすくし、かつ、抜けにくい機能を持ったリングを発案した(以下イージーリングと称する)。それを片麻痺の症例に用い、角環とイージーリングとの装着時間を各々測定し、イージーリングが装具装着を容易にさせるか見ると共に、装着を容易にする事はどのような効果が得られるのか考察する事が目的である。【方法】イージーリングの効果の実証には症例が普段使用している装具にて行った。まず、角環での装着時間を計測しその後、角環をイージーリングへ付替え装着時間を各々3回計測し平均をとった。また、計測は装具を装着し終えた時点から測定を始めベルトを通し終えるまでとした。有効性を見るにはウィルコクソンの符号付順位和検定を用いた。【説明と同意】症例は、右片麻痺25例、左片麻痺25例で内訳を以下に示す。 年齢:31歳~85歳(平均72.5±9.7歳)性:男性25例、女性25例 発症からの日数:28~1017日(平均179±188.6日) 全例シューホーンAFOを使用 下肢BRS:<&#8544;>:0例(0)<&#8545;>:15例(7)<&#8546;>:19例(10)<&#8547;>:14例(8)<&#8548;>:2例(0)<&#8549;>:0例(0)( )は健手麻痺 歩行能力:自立17例 監視14例 小介助7例 多介助12例 不能0例 前記の症例に対して既存の角環と新たに完成したイージーリングとで各々の装着時間を計測し、どちらが装着し易いか比較検討する事が目的である事を説明し、リングの付替えに同意を得た例を対象とした。また、高度の認知症や高次脳機能障害を持つ例は除外した。【結果】1 角環での装着時間は、左片麻痺では13.3~166.1秒(平均45.0±46.3秒)右片麻痺では、19.8~300.0秒(平均66.0±60.5秒)であった。イージーリングでの装着時間は、左片麻痺では7.8~140.1秒(平均32.2±37.6秒)右片麻痺では9.2~149.2秒(平均39.3±32.2秒)であった。装着時間では、イージーリングの方が、左片麻痺でー4.1~―36.2秒(平均-13.8±9.0秒)装着時間が短く、右片麻痺ではー5.6~―150.8秒(平均-26.7±30.3秒)装着時間が短縮し、右片麻痺の症例で効果が明らかであった。 2 有効性を見るのに統計を用い検討したところ、左片麻痺では全例イージーリングの有効性(P<0.01)が認められ、右片麻痺に於いてもイージーリングに有意な差が認められた。(P<0.01) 3 角環からイージーリングに付替える事は、全例で承諾を得ており測定終了後は、元の状態に戻す事を説明していたが角環に戻す例は1例もいなかった。【考察】今回、角環の上部に隙間の開いたイージーリングを新たに創作し、装具装着時間を計測したところ、全例で装具装着時間が短縮し角環に比べイージーリングの方が装着し易いという結果を得た。装着が容易になった理由は、差込みから折返しまでベルトを持ちかえる必要が無くなった事が大きい。また、これらの症例の中には装具を作成して以来、初めて自力でベルト装着できた症例も含まれており注目に値する。片麻痺患者にとって装具の選択は重要であり、装具の選択要因には安定性や歩容で決定される事が多い。しかし、これに加えて装具の装着能力をも考慮しなければならない。現在、医師や理学療法士が装具を処方する際は装具の機能性や歩容を優先する傾向にあるが、症例の立場に立って装着し易さといった面も視野に入れて、装具の処方がなされる機会が増える事を切望すると共にイージーリングが装具を処方する際の選択肢の一つになれればと思う。【理学療法学研究としての意義】どんなに優れた機能を持った装具でも、自力装着できなければ症例の持つ真の歩行能力を見落とす可能性がある。在宅療養になった際、特にこの点は重要で、自力装着できなければ裸足で歩く事になり、転倒のリスクが増す事となる。それに対して装具装着を容易にし、安定した歩行を獲得させる事は、転倒のリスクを減少させ、歩行能力の維持・拡大のみならず健康維持にもつながる。その事は、在宅療養を継続するのに重要な因子であり今回完成したイージーリングは在宅療養の継続に貢献できるものと考える。また、イージーリングは下肢装具以外にもコルセットや他の装具にも活用が期待でき、装着の煩わしさを軽減させるため、本人のみならず介護者にとっても利便性が広がる可能性を持つものと考える。
著者
寺田 僚介 大町 かおり
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H4P2361, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】軸足の定義は文献によって異なり、未だ明確化されていない。本研究の目的は、軸足の定義を再考し、通常歩行時の歩幅をもとに運動学的に分析し、軸足と非軸足の機能の違いを検討することである。【方法】対象は下肢および腰部に整形外科的既往のない健常男性11名であり、平均年齢21.3±1.1歳、平均身長173.9±5.1 cm、平均体重64.2±7.4 kg、平均ASIS間距離24.0±2.2cm、平均SMD86.9±4.3cmであった。軸足の設定は以下の3条件とし、その対側を非軸足とした。条件1:通常の立位時に荷重量の多い側(直立位条件)。条件2:「安めの姿勢」での荷重量の多い側(安楽立位条件)。条件3:ボールを蹴る側の脚の対側(ボール条件)。測定課題は、室内にて裸足での自由歩行とした。歩行は2回行い、2回目の測定範囲中央のデータを用いた。動作計測には三次元動作解析装置(VICON460、OxfordMetrics)を使用し、反射マーカーを左右の上前腸骨棘、上後腸骨棘、大腿外側、大腿骨外側上顆、下腿外側、外果、踵骨後面、第2中足骨頭に両面テープで貼付した。Initial Contact (以下IC)時における両側の関節角度(Pelvis、Hip、Knee、Ankle)と歩幅を計測した。歩幅は振り出し側のHC時の踵骨後面のマーカーの座標と対側の踵骨後面のマーカーを基に算出した。統計処理は、3条件の軸足と非軸足に対し、歩幅、関節角度の比較を対応のあるt検定にて、軸足あるいは非軸足の歩幅に関するそれぞれのすべての測定値に対し関係性をピアソンの相関にて検討した。有意水準を5%未満とし、10%未満を傾向ありとした。【説明と同意】対象者に事前に研究の目的と方法の説明を行い、書面にて同意を得た上で上記の計測を行った。【結果】軸足に関する3条件の歩幅は、直立位条件(非軸足:66.8±11.6cm、軸足:64.5±7.0 cm)、安楽立位条件(非軸足:67.4 ±9.9cm、軸足:63.9 ±9.1cm)、ボール条件 (非軸足:65.8 ±11.5 cm、軸足:65.6 ±7.5 cm)であった。安楽立位条件で軸足を決定した際の歩行時の関節角度は、振り出した側の骨盤前方回旋角度(非軸足が振り出した際の非軸足の骨盤前方回旋角度:6.4±3.1度、軸足(同様):5.8±3.3度)、同股関節屈曲角度(非軸足:30.5±3.8度、軸足:29.2±4.2度)、同膝関節屈曲角度(非軸足:10.1±3.8度、軸足:8.9±5.8度)、 同足関節背屈角度(非軸足:5.8±3.6度、軸足:4.9±3.0度)、残された側の骨盤前方回旋角度(非軸足に対する対側の骨盤前方回旋角度:4.6±2.9度、軸足(同様):7.5±2.9度)、同股関節伸展角度(非軸足:10.5±5.9度、軸足:8.9±6.0度)、同膝関節屈曲角度(非軸足:13.9±3.8度、軸足:15.4±5.3度)、同足関節背屈角度(非軸足:17.4±3.9度、軸足:19.5±2.5度)であった。 安楽立位時における非軸足側の歩幅は軸足側の歩幅と比較して長い傾向があり、歩行時の残された側の股関節伸展角度においても非軸足側が、伸展角度が大きい傾向が見られた(いずれもp<0.1)。その他2条件の軸足と歩幅、関節角度の間には有意差は認めらなかった。また、安楽立位時における歩幅と残された側の股関節伸展角度において、非軸足、軸足共に正の相関が認められ(非軸足r=0.62、軸足r=0.672、いずれもp<0.05)、非軸足における歩幅と残された側の足関節背屈角度に負の相関が認められた(r=-0.615、p<0.05)。【考察】今回、軸足の定義を3条件設定し、振り出し側のIC時における歩幅と骨盤および下肢の関節角度に着目した。軸足を安楽立位での荷重量の多い側と定義した際に、非軸足の歩幅が長くなる傾向があり、振り出し側が非軸足の場合の歩幅が大きいほど、対側の股関節伸展角度は有意に大きく、同じく対側の足関節背屈角度は有意に小さいという結果となった。本来、健常者の歩幅は左右差がないとされているが、軸足の定義を安静立位時の荷重側とした際に、非軸足の歩幅の方が長くなる傾向があり、それは、残された軸足の股関節が十分に伸展し、足関節を底屈させ足底の支持面が小さくなっても十分に支持できる姿勢制御の機能によるのではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】軸足と非軸足の役割の違いを明確にすることは、スポーツ分野での多用による傷害、あるいは時間経過による変性などの高齢者に生じる障害について、現象を明らかにし、治療に生かすことのできる基礎資料となると考えられる。
著者
岩坂 知治 江藤 正博 田中 創 副島 義久 森澤 佳三 西川 英夫 山田 実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C4P2204, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】過去,座位姿勢に着目した重心動揺計を用いた研究は少なく,特に整形外科疾患に特化した研究は数少ない.しかし,臨床上腰部疾患を有する患者の多くは,座位姿勢において何らかの症状を訴えることが多い.これらの患者に対して,体幹機能を重視した評価・アプローチが行われるのが一般的であるが,これだけで症状軽減に繋がらないケースを多々経験する.そこで今回,座位時の重心動揺を,条件を規定して測定した結果,有用な知見が得られたので若干の考察を加えて報告する.【方法】対象は当院外来通院中の腰部疾患患者14名(男性5名,女性9名)で,平均年齢は63.2歳.病態の内訳は変形性腰椎症4名,腰椎圧迫骨折3名,椎間板ヘルニア4名,腰部脊柱管狭窄症3名である.対象群は腰痛の既往のない健常成人10名(男性6名、女性4名)とした.平均年齢は25.6歳.方法は重心動揺計を用いて総軌跡長,単位軌跡長,外周面積,単位面積軌跡長,矩形面積,実効値面積を測定した.計測条件として,昇降式治療ベッドに重心動揺計(アニマ社製グラビコーダGS-31)を置き,両足底が床面に接地した端座位(以下,足底接地),両足底が床面から浮いた端座位(以下,非接地)の2条件とした.計測肢位は,治療用昇降ベッドにて高さ調節を行い,両条件とも股・膝関節90°屈曲位,足底接地条件では足関節底背屈0°となるよう床面の高さを設定,両上肢は胸の前で組み,測定場所より5メートル離れた壁の一点を注視させた.計測は被検者が重心動揺計に座り,測定肢位を取った状態から20秒後に検者がスタートボタンを押し,安静座位の状態を60秒間計測した.なお,同群2条件間の解析はMann-Whitney検定,患者-健常者両群間の解析はWilcoxon検定を用いて検討した.【説明と同意】当院の倫理委員会にて本研究の目的を説明し,同意を得た上で実施した.また,それぞれの対象者に本研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た上で実施した.【結果】非接地条件下では,外周面積,単位軌跡長,総軌跡長,矩形面積が患者群で有意に高値を示した(p<0.05).足接地条件下では,患者群において単位面積軌跡長で有意に低値を示した(p<0.05).患者群,健常者群の両群ともに,外周面積,単位面積軌跡長は足底接地条件下では有意に高値を示した(p<0.05).【考察】本結果より,患者群において足底非接地条件下では重心の動揺が顕著にみられたのに対し,足底接地においては重心の動揺が低値を示すことが分かった.通常,足底非接地の座位では,その制御に股関節より上位の体節が関与するとされている.この条件下では患者群において体幹での制御が不十分なことから,動揺が大きくなったものと考えられる.一方,足底接地においては,足部を接地したことによる支持面の増加,制御に関わる体節の増加,つまりは運動制御に関わる自由度が増加したことで,体幹での制御が軽減され,重心動揺が低値を示したものと考えられる.しかし,健常者群と比較して患者群の単位面積軌跡長が低値を示す結果となった.これは,患者群で足底が接地することで,固定化された座位姿勢が形成されたものと考えられる.足底非接地条件下では腰部疾患患者の既往に伴い,体幹の制御不良が露呈される結果になったが,腰部疾患患者においては足部接地の条件が加わるとで,足部を軸とした下肢の制御が大きく関与することが考えられる.これらより,腰部疾患患者に対して,体幹機能のみならず,下肢の影響も考慮して評価を行なっていく有用性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究より,過去研究数の少ない整形疾患の座位重心動揺に対する有用なデータが得られ,腰部疾患患者における評価の新たな視点となりうる結果となった.しかし,重心動揺計により得られた結果はあくまで二次元で示されたものであるため,床反力を考慮した研究を今後の課題としたい.