著者
大空 鷹介 矢野 修一
出版者
日本ダニ学会
雑誌
日本ダニ学会誌 (ISSN:09181067)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.87-92, 2008-11-25
被引用文献数
5

半数倍数性の性決定様式を持つナミハダニ雌成虫は未受精では雄しか産めないため,未受精雌の受精を早めるような適応が見られるかもしれない.母子交配が可能なナミハダニでは,この適応が息子の形質にまで影響している可能性がある.そこで,母親の受精の有無が息子の形質に与える影響について,1)母親を早く受精させるため,未受精雌の長男は(受精雌の長男より)早く成長するか,2)未受精雌の息子と受精雌の息子で雌を獲得する能力に差異があるか,3)未受精雌の息子と受精雌の息子で分散性に差があるか,の3つの仮説を検証した.その結果,母親の受精の有無という産卵前の母性効果も,母親が同居したかどうかという産卵後の母性効果も,認められなかった.一方,未受精雌の息子の方が受精雌の息子よりも先に雌をガードすることが多かった.また,分散性も未受精雌の息子の方が高かった.これは,受精雌の息子に比べて未受精雌の息子の周囲にはより低い雌比が予測されるため,未受精雌の息子が雌の探索やガードにより多くのコストを割いている結果だと考えられる.