著者
松川 純 稲富 信博 大竹 一嘉
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.5, pp.275-282, 2015 (Released:2015-11-11)
参考文献数
16
被引用文献数
1 4

ボノプラザンフマル酸塩(TAK-438,以後ボノプラザン)は胃潰瘍,十二指腸潰瘍,逆流性食道炎,低用量アスピリンあるいは非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発抑制およびH. pyloriの除菌補助の効能効果で承認された新規胃酸分泌抑制薬である.カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)とも呼ばれる新たな作用機序を有するボノプラザンは,胃のH+, K+-ATPaseを従来のプロトンポンプ阻害薬(PPI)とは全く異なる様式で阻害する.ボノプラザンは酸に安定で胃壁細胞に高濃度集積し,消失が遅いことから従来のPPIよりも作用持続が長く,またPPIとは異なり酸による活性化を必要としないことから胃内pHを高く上昇させることができる.PPIで問題となっている薬物におけるCYP2C19遺伝多型の影響をほとんど受けないことから,効果のばらつきも小さく,PPIよりも有用性が高い治療薬としての可能性が示唆された.ボノプラザンの強力な酸分泌抑制効果,その効果発現の早さ,効果の持続の長さは臨床試験でも示され,逆流性食道炎などの酸関連疾患の治療やH. pylori除菌補助において優れた有効性・安全性が確認された.ボノプラザンは酸関連疾患などの治療におけるunmet medical needsに応えることのできる新たな選択肢として期待される.