著者
須田 勝彦 岡野 勉 大竹 政美 大野 栄三
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、日本の公教育の成立・形成期(国定教科書成立以前)における数学(算術)、自然科学関係の教科書を検討し、その中で「基礎・基本」がどのように構想されていたのかを明らかにし、今日の教育課程・教育内容編成の問題に有効な指針として生かし得る視点を抽出することを目的とした。数学教育では分数の概念に焦点をあて、次のような知見を得た。(1)分数指導は、初期においては複数学年にわたる指導内容の分配(分断)がなく、導入から乗除まで一貫した連続指導を進める構成であり、形成期に様々な形での分散方式への移行がなされた。この過程の検討は、現行カリキュラムにおける根拠のない分散への批判的検討の素材として重要である。(2)分数の定義に関して、現行と同様の等分割と整数倍によるものばかりではなく、指導の早期にその定義と併せて、商の表現としての分数という定義も導入し、両者の同等性を説明する試みも少なくない。後者は現在の分数指導過程の構成に生かし得る。(3)演算の指導に関して、整数の乗法との連続性・同一性を懇切に説明する教科書も多い。演算の遂行方法の指導に偏りがちな指導方法への批判の視点として重要である。自然科学関係では、近年の中学校・高校における物理分野の教育内容編成の問題点を検討し、明治期中学校物理教科書から読み取れる教育内容編成のあり方と比較した。現在の中学校学習指導要領理科とほぼ同様の教育内容の編成が明治期の中学校物理教科書の一部でも採用されている。しかし、詳細に見ると音の学習の位置づけにちがいがあり、明治期教科書における系統性の方が豊かな音の学習を展開できる可能性がある。さらに読本教科書においても、科学教育の一環を担いうるテーマが多く登場しており、それを位置づけうる教科を越えた理論的カテゴリーの構築の重要性が示された。