著者
大竹 昌巳
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.148, pp.81-102, 2015 (Released:2016-05-17)
参考文献数
45

契丹語はモンゴル諸語と親縁関係を有する死滅した言語で,11–12世紀の契丹小字文献によってその姿を知ることができる。本稿は,契丹小字文献における母音の長さの書き分けについて,同源語の比較やテキストにおける分布特徴の分析,接尾辞の異形態や綴字交替の分析等を通じて以下の点を示す。(1)V, CVのように開音節型の字素の母音は長母音を表記している。(2)VCのように閉音節型の字素の母音は基本的に短母音を表すが,長母音ē+子音を表す一連の字素も存在する(Vは母音,Cは半母音を含む子音を表す)。また,比較言語学的観点からは,(3)契丹語の長母音には現代モンゴル語の(母音間の子音の脱落による母音縮合の結果生じた)二次的長母音に対応するものに加えて,(4)モンゴル祖語やテュルク祖語にかつて存在した一次的長母音と対応すると考えられるものが存在する可能性についても論じる*。