著者
大西 克也
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2000

本研究は、出土資料の相互比較による漢語語法史、語彙史再構築を展開するための予備的研究として、正確な解読に困難の大きい楚系文字資料を取り上げ、その集成、正確な釈文の作成、資料の性格の探求、基礎的語彙の調査ならびに他地域出土資料との比較を目指すものであるが、平成14年度に行なった実績は以下のとおりである。楚簡解読の基礎となる字釈関係論文のリストアップと、字釈の収集の作業は、昨年に引き続き行なったが、主たる対象は『郭店楚墓竹簡』『望山楚簡』等の基本的著録に示されている字釈や、李運富『楚国簡帛文字構形系統研究』等文字学関係専門書の中で検討されている楚系文字の解釈である。逐次刊行物中の字釈も引き続き収集した。次にこれらの字釈を参考に既刊釈文の再検討を行ない、新たな釈文を作成し、データベース化した。現時点で完成しているのは郭店楚簡、包山楚簡(遣策を除く)、望山1号墓楚簡、上海博物館蔵楚簡(緇衣、孔子詩論)、戦国楚系金文(劉彬徽『楚系青銅器研究』所収金文)である。入力はテキストデータのみだが、複雑な文字は一字を幾つかの構成要素に分割して入力し、構成要素からの検索が可能なようにした。構成要素の分割に関しては、特に諧声符の認定に留意した。なお、膨大なテキストを処理したために、構成要素分割処理に統一性を欠く部分が有ること、入力に使用したエディタが研究開始時点ではユニコードに対応していなかったために、高電社製Chinese Writer独自の文字コードを使用したこと、外字の使用を最小限に抑えるため現時点では代用記号を使用していること等問題点も多く、これらの解決は将来の課題としたい。言語研究に関しては、平成14年8月に中国広州市で開かれた中国古文字学研究会に出席し、「論古文字資料中的"害"字及其讀音問題」という題で報告を行い、また閉幕式で日本における古文字研究の現状を紹介した。また下記論文「従方言的角度看時間副詞"将""且"在戦国秦漢出土資料中的分布」は各地域の出土資料を比較検討した結果、将来を表わす時間副詞「且」が秦の、「将」が東方六国系の語であったことを論じたものである。