著者
大西,一嘉
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.6, 1996-11

1995年兵庫県南部地震では、震災による直接的な死者数だけでも5504人にのぼり、その約9割は建物倒壊によりもたらされたものと考えられている。特に耐震性の低い木造住宅に倒壊が集中し未曾有の人的被害を生んだ。本報告では、まず、神戸市における死者(3410人)について、被災場所となった建物側の要因との関係を整理した結果の概要を示し、地震による人的被害の状況を概観した。その結果、戸建てでの死者が多い東灘区と、木賃、文化、長屋などの共同建てでの死者が多い灘区との違いが明確に示されている。また、中高層共同住宅でも283人の死者が出ている点、無被害建物での死者(95人)の多くが共同住宅で発生している点なども、今後詳細に解明していくべき課題として残されていることを指摘した。ついで、建物全壊率、死者発生率ともに高かった東灘区を対象として、建物被害と人的被害の関連性についての、典型地区アンケートを実施した結果を報告した。東灘区全体の建物被害の特徴は、既存調査(都市計画学会関西支部+建築学会近畿支部都市計画部会の合同建物被災度実態調査にもとづいて、都市住宅学会住宅復興チームが行った戸数単位集計結果)によれば戸建と高層共同住宅の全壊率が高い点にある。また東灘区の南部-帯には木賃、長屋の老朽密集地区が拡がっており、被害の激しかった深江地区ではこれら老朽低層共同住宅の全壊率は85%以上にのぼると言われている。対象とした調査地区では、震災直後に木造住宅に関する詳細な現地調査が実施されており、今後、人的被害研究会(太田裕(山口大学)氏を代表とする、学際的な研究組織)における協力体制のもとで、一連の調査資料の照合を進めることで人的被害に関する予測モデルの構築を目指している。ただ、現段階ではこれらを重ね合わせた詳細な分析にはいたっておらず、本報告ではアンケート調査による集計結果をもとにした人的被害構造の概括的分析にとどまっている。結果を要点は以下のとおりである。死者の出た世帯では、当日の在宅者の3人に1人が亡くなっている反面、同じ家にいた人で、重傷、軽傷者は少なく、負傷者発生率は、死者発生率の半分以下であった。この事は、生き残った人の3分の2は大した怪我もなく救出されている事を示している。地区全域での人的被害でも、近年のわが国における地震被害と比較しても死者発生率の高さが顕著であり、脆弱な家屋構造による人的被害の発生は、発展途上国型災害の様相をみせていると考えられる。地域全体としてみた時、死者から軽傷者にいたる人的被害総数を、地域災害医療ニーズとして考えると、今回の調査によれば住民の2割を占めることとなる。